一 本件においてA丸が舞鶴港から福井縣三国港に向け出航する予定であつたことは所論のとおりであるが被告人等は右三国港から朝鮮向けの密航船があること及び同船に連絡する船が舞鶴港から出航することを聞知し此の機会を利して朝鮮えの物品の密輸出を企て判示物件をA丸に積込んだものであり原判決挙示の証拠によればその頃密航船が航行していたとも窺知することができるのであるから被告人の所為をもつて不能犯ということはできない。 二 原判示によると被告人等は密輸出の目的をもつて福井縣三国港発の朝鮮行の貨物船に乗船するため同港向け出航予定のA丸に舞鶴市大森海岸伊佐津川口で判示物件を積込んだというのであるから被告人等の所為は原判示の諸法令にいわゆる「輸出ヲ図リタル者」及び「輸出をしようとした者」に該当するものであることは明白である。
一 朝鮮向けの密輸行為が不能犯といえない事例 二 「輸出ヲ図リタル者」及び「輸出をしようとした者」にあたる事例
昭和21年勅令328号貿易等臨措置令4条,昭和21年勅令32号貿易等臨時措置令4条,昭和23年法律107号に依る改正後の関税法76条1項
判旨
密輸出の目的で、密航船との連絡船として利用する船舶に物件を積み込む行為は、客観的に結果発生の危険が認められ、輸出の実行の着手(「輸出を計る」または「輸出しようとする」行為)に該当する。
問題の所在(論点)
国内港間の航行を予定している船舶に、密航船への積み替え目的で物件を積み込む行為が、輸出の実行の着手(「輸出を図り」「輸出しようとした」行為)に該当するか。
規範
実行の着手は、犯罪実現の現実的危険性を有する行為を開始したか否かにより判断される。不能犯とならず未遂罪(または予備・着手行為を罰する規定)が成立するためには、行為当時に存在した客観的事実に基づき、結果発生の具体的危険性が認められれば足りる。
重要事実
事件番号: 昭和25(れ)945 / 裁判年月日: 昭和25年9月28日 / 結論: 棄却
所論鑑定人Aの鑑定の趣旨が、原判決摘示の通り、判示B丸を以てすれば冬期においても周到なる注意に依つて天候を見定めて出航すればa港より朝鮮への渡航は可能であるとするにあること、その鑑定書の記載自体によつて明瞭である。犯人が客観的に犯罪の遂行に可能な手段を以てその實行に着手すれば、犯行實現の危険性あること勿論であるから、偶…
被告人らは、朝鮮への物品密輸出を企て、福井県三国港から出る朝鮮行きの密航船に連絡する船としてA丸を利用することを計画した。被告人らは、舞鶴港から三国港に向けて出航予定のA丸に、密輸出目的の物件を積み込んだ。弁護側は、A丸は国内航路(舞鶴から三国)の予定であり、結果発生の可能性がない不能犯であると主張した。
あてはめ
被告人らは、三国港からの密航船の存在およびそれへの連絡船が舞鶴から出ることを知って本件を企てており、実際に当時密航船が航行していた事実も認められる。そうであれば、A丸自体は国内航路であっても、密航船への連絡という一連の計画の一部として物件を積み込んだ以上、輸出の危険性は客観的に認められる。したがって、不能犯ではなく、各法令が禁ずる輸出の着手行為に該当するといえる。
結論
被告人らの所為は不能犯ではなく、輸出の実行の着手を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
本判決は、直接の輸送手段が国内航路であっても、背後に密輸出の具体的計画と客観的状況(密航船の存在等)があれば実行の着手を認める「現実的危険性」の判断基準を示している。行政法規の罰則における「着手」時期の解釈として、目的達成に向けた密接な行為を広く捉える傾向にある点に注意が必要である。
事件番号: 昭和25(れ)433 / 裁判年月日: 昭和25年9月19日 / 結論: 棄却
所論のように朝鮮向け船舶が當時絶對に存在しなかつたということは原審の認定しない事實であつて、原判決の摘示事實とその舉げている證據によれば、かかる船舶が存在し被告人等もこれが來航を豫期して密輸出物資を多量に買入れ、これと朝鮮在住者宛の手紙等を取り纒めて梱包し、貨物自動車二台に積載し、眞夜中ひそかに海岸近くまで運搬したので…
事件番号: 昭和27(あ)6454 / 裁判年月日: 昭和29年5月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実行の着手は、犯行を企図した意思が外部に現れた行為といえるか否かによって判断され、密輸出の予備行為を超え、客観的に密輸出に至る危険性が認められる行為があった場合に認められる。 第1 事案の概要:被告人A及びBは、貨物を朝鮮へ密輸出することを企図し、互いに共謀した。被告人らは、密輸出の実現に向けて具…
事件番号: 昭和24(れ)1946 / 裁判年月日: 昭和25年1月19日 / 結論: 棄却
一 原判決の認定した本件犯罪事實は、要するに、被告人A、同Bは、原審相被告人C、同D及び第一審相被告人Eと共謀の上相共に物資を石川縣a港から船積みして朝鮮に密輸出しようと企て、被告人Aにおいて、判示のごとく昭和二二年一一月中右目的に使用するため機帆船F丸を買い取り、その修理艤装を進め同年一二月中旬頃迄の間に燃料その他消…
事件番号: 昭和24新(れ)458 / 裁判年月日: 昭和25年5月30日 / 結論: 棄却
一 昭和二一年勅令第二七七號關税法の罰則等の特例に關する件第一條第二項に所謂「輸出しようとした者」とは、目的の物品を、日本領土外に仕向けられた船舶に積載する行爲の實行には達しなくても、輸出のための單なる準備行爲の範圍を超えて、右積載行爲に接着近接した手段行爲の遂行に入つた者を指稱することは當裁判所の判例の示すところであ…