一 原判決の認定した本件犯罪事實は、要するに、被告人A、同Bは、原審相被告人C、同D及び第一審相被告人Eと共謀の上相共に物資を石川縣a港から船積みして朝鮮に密輸出しようと企て、被告人Aにおいて、判示のごとく昭和二二年一一月中右目的に使用するため機帆船F丸を買い取り、その修理艤装を進め同年一二月中旬頃迄の間に燃料その他消耗品の調辨、船員の雇入れなど航海準備を遂行する一面同被告人又は前記被告人等が京阪神又は東京都等、で買入れ又は委託を受けた判示多數の物資を、同日半頃天候次第出航豫定のF丸に船積するためその頃までに七尾市に搬入の上同市内に保管し被告人等はその頃同市内において天候の回復する迄船積及び出航を待機していたというのである。されば、被告人等の所爲は輸出のための單なる準備行爲の程度を超えて船積出航行爲に接着近接する行爲の段階にまで到達したものであるから、關税法の罰則等の特例に關する勅令第一條第二項にいわゆる「輸出しようとした者」に該當するものといわなければならない。 二 適法な證據調を經ない證據をその他の證據と綜合して犯罪事實を認定した違法があつても、その證據調を經ない證據が、證明すべき事實に對し直接の證據である信書が相被告人の居室から適法に發見押收されたことを證明するに過ぎないもので、それを除外してもその事實を認めることができ、要するに掲げる必要のない證據である場合には、前記の違法は、原判決に影響を及ぼさないものというべきである。
一 關税法の罰則等の特例に關する勅令第一條第二項にいわゆる「輸出しようとした者」に該當する一例 二 證據調を經ない證據を他の證據と綜合して罪事犯實を認定した違法があつても原判決に影響を及ぼなさい場合
關税法の罰則等の特例に關する昭和21年勅令277號1條2項,舊刑訴法336條,舊刑訴法409條,舊刑訴法411條
判旨
密輸出の実行の着手は、単なる準備行為を超えて、船積・出航行為に接着近接する行為の段階にまで到達したときに認められる。
問題の所在(論点)
物資を密輸出する目的で船舶を準備し、積荷を港付近に搬入して待機していた段階において、密輸出罪(関税法違反)の実行の着手(「輸出しようとした」こと)が認められるか。
規範
関税法(当時の勅令)における「輸出しようとした者(未遂罪)」に該当し実行の着手が認められるためには、単なる輸出の準備行為に留まらず、客観的に船積および出航行為に接着近接する行為の段階にまで到達していることを要する。
事件番号: 昭和25(れ)433 / 裁判年月日: 昭和25年9月19日 / 結論: 棄却
所論のように朝鮮向け船舶が當時絶對に存在しなかつたということは原審の認定しない事實であつて、原判決の摘示事實とその舉げている證據によれば、かかる船舶が存在し被告人等もこれが來航を豫期して密輸出物資を多量に買入れ、これと朝鮮在住者宛の手紙等を取り纒めて梱包し、貨物自動車二台に積載し、眞夜中ひそかに海岸近くまで運搬したので…
重要事実
被告人らは、物資を密輸出することを共謀し、その目的に使用するための機帆船を買い取り、修理・艤装を進め、燃料や消耗品の調弁、船員の雇入れなどの航海準備を完了させた。さらに、京阪神等で買い集めた多数の物資を、天候次第で出航予定であった当該船舶に船積みするため、港のある市内に搬入して保管した。被告人らは同市内において、天候の回復を待ち、船積および出航を待機している状態であった。
あてはめ
被告人らは、単に輸出の主観的意図を有していただけでなく、客観的にも航海に必要な船舶の艤装や人員の確保等の準備を全て完了させている。その上で、密輸出の対象となる具体的物資を既に出航地付近に搬入し、天候の回復さえあれば直ちに船積・出航が可能な状態で待機していた。このような状況は、船積および出航という実行行為に極めて接着近接した段階にあるといえるため、単なる準備行為の域を脱していると解される。
結論
被告人らの所為は、船積出航行為に接着近接する段階に到達しており、「輸出しようとした者」に該当し、実行の着手が認められる。
実務上の射程
本判決は密輸出罪に関するものであるが、実行の着手時期について「実行行為に接着近接する行為」という基準を示しており、他の未遂罪の実行の着手時期を検討する際の判断枠組み(客観的説・密接行為説)として、刑法総論の答案において援用可能である。
事件番号: 昭和25(れ)1208 / 裁判年月日: 昭和25年11月10日 / 結論: 棄却
一 本件においてA丸が舞鶴港から福井縣三国港に向け出航する予定であつたことは所論のとおりであるが被告人等は右三国港から朝鮮向けの密航船があること及び同船に連絡する船が舞鶴港から出航することを聞知し此の機会を利して朝鮮えの物品の密輸出を企て判示物件をA丸に積込んだものであり原判決挙示の証拠によればその頃密航船が航行してい…
事件番号: 昭和26(れ)1337 / 裁判年月日: 昭和26年11月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】正犯が密輸出を企図していることを認識しながら、当該密輸出を容易にする物品の売買行為を行った場合、正犯の実行行為を容易ならしめたものとして、刑法62条1項の幇助犯が成立する。 第1 事案の概要:被告人Dは、共犯者Bらが商品を密輸出する計画を立てていることを察知していた。それにもかかわらず、DはBらに…
事件番号: 昭和24(れ)285 / 裁判年月日: 昭和24年7月23日 / 結論: 棄却
しかし、貿易等臨時措置令第四條及び關税法の罰則等の特例に關する勅令第一條第二項は何れも輸出入しようとした行爲をを罰する旨を規定しているのであるから、原判示のように朝鮮向けの密航船を仕立てて、税關の兔許も受けず、その他法定の除外事由もないのに右密航船に指輪ライター等を多量に船積した第一審相被告人Aの所爲は前記兩勅令の規定…
事件番号: 昭和27(あ)6454 / 裁判年月日: 昭和29年5月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実行の着手は、犯行を企図した意思が外部に現れた行為といえるか否かによって判断され、密輸出の予備行為を超え、客観的に密輸出に至る危険性が認められる行為があった場合に認められる。 第1 事案の概要:被告人A及びBは、貨物を朝鮮へ密輸出することを企図し、互いに共謀した。被告人らは、密輸出の実現に向けて具…