判旨
実行の着手は、犯行を企図した意思が外部に現れた行為といえるか否かによって判断され、密輸出の予備行為を超え、客観的に密輸出に至る危険性が認められる行為があった場合に認められる。
問題の所在(論点)
密輸出を企図して行われた行為が、刑法43条前段にいう「実行に着手」したといえるか。また、共謀に基づく行為について共同正犯が成立するか。
規範
実行の着手(刑法43条前段)は、単なる予備行為にとどまらず、犯罪の実現に至る客観的な危険性を有する行為が開始された場合に認められる。その判断にあたっては、被告人が共謀して犯罪を完遂しようと企図した意思が、外部に現れたものと認められる一連の行為が行われたか否かを基準とする。
重要事実
被告人A及びBは、貨物を朝鮮へ密輸出することを企図し、互いに共謀した。被告人らは、密輸出の実現に向けて具体的な準備を進め、その計画に基づき、客観的に密輸出の実行と密接に関連する行為に及んだ(具体的な行為態様については判決文からは不明)。第一審及び原審は、これらの行為が密輸出の企図を外部に現したものとして実行の着手を肯定し、共同正犯の成立を認めた。
あてはめ
被告人らの行為は、単なる内心の計画にとどまらず、朝鮮への密輸出という犯罪結果を発生させる具体的危険性を有するものであった。これは、被告人らが共謀して密輸出を企図した意思が、外部的な行動として具体化・顕在化したものと評価できる。したがって、当該行為は密輸出罪の構成要件的結果発生の蓋然性を高めるものであり、実行の着手があったと解される。また、共謀の事実が認められる以上、被告人Aについても被告人Bとの共同正犯(刑法60条)としての責任を免れない。
結論
被告人らの行為には実行の着手が認められ、密輸未遂罪(または既遂罪。判決文からは不明)の共同正犯が成立する。
事件番号: 昭和25(れ)1208 / 裁判年月日: 昭和25年11月10日 / 結論: 棄却
一 本件においてA丸が舞鶴港から福井縣三国港に向け出航する予定であつたことは所論のとおりであるが被告人等は右三国港から朝鮮向けの密航船があること及び同船に連絡する船が舞鶴港から出航することを聞知し此の機会を利して朝鮮えの物品の密輸出を企て判示物件をA丸に積込んだものであり原判決挙示の証拠によればその頃密航船が航行してい…
実務上の射程
本判決は、実行の着手時期に関し、主観的な犯意の外部的発現を重視する立場を示唆しつつ、実質的には行為の危険性を考慮して判断している。答案作成上は、密輸等の事案において、どの段階で「外部に現れた」といえるほどの危険が生じたかを具体的事実から論述する際の指針となる。また、共謀共同正犯の成立要件(共謀、共謀に基づく実行)を肯定する際の見本としても活用できる。
事件番号: 昭和25(れ)433 / 裁判年月日: 昭和25年9月19日 / 結論: 棄却
所論のように朝鮮向け船舶が當時絶對に存在しなかつたということは原審の認定しない事實であつて、原判決の摘示事實とその舉げている證據によれば、かかる船舶が存在し被告人等もこれが來航を豫期して密輸出物資を多量に買入れ、これと朝鮮在住者宛の手紙等を取り纒めて梱包し、貨物自動車二台に積載し、眞夜中ひそかに海岸近くまで運搬したので…
事件番号: 昭和24(れ)1946 / 裁判年月日: 昭和25年1月19日 / 結論: 棄却
一 原判決の認定した本件犯罪事實は、要するに、被告人A、同Bは、原審相被告人C、同D及び第一審相被告人Eと共謀の上相共に物資を石川縣a港から船積みして朝鮮に密輸出しようと企て、被告人Aにおいて、判示のごとく昭和二二年一一月中右目的に使用するため機帆船F丸を買い取り、その修理艤装を進め同年一二月中旬頃迄の間に燃料その他消…
事件番号: 昭和25(れ)945 / 裁判年月日: 昭和25年9月28日 / 結論: 棄却
所論鑑定人Aの鑑定の趣旨が、原判決摘示の通り、判示B丸を以てすれば冬期においても周到なる注意に依つて天候を見定めて出航すればa港より朝鮮への渡航は可能であるとするにあること、その鑑定書の記載自体によつて明瞭である。犯人が客観的に犯罪の遂行に可能な手段を以てその實行に着手すれば、犯行實現の危険性あること勿論であるから、偶…
事件番号: 昭和24新(れ)458 / 裁判年月日: 昭和25年5月30日 / 結論: 棄却
一 昭和二一年勅令第二七七號關税法の罰則等の特例に關する件第一條第二項に所謂「輸出しようとした者」とは、目的の物品を、日本領土外に仕向けられた船舶に積載する行爲の實行には達しなくても、輸出のための單なる準備行爲の範圍を超えて、右積載行爲に接着近接した手段行爲の遂行に入つた者を指稱することは當裁判所の判例の示すところであ…