所論のように朝鮮向け船舶が當時絶對に存在しなかつたということは原審の認定しない事實であつて、原判決の摘示事實とその舉げている證據によれば、かかる船舶が存在し被告人等もこれが來航を豫期して密輸出物資を多量に買入れ、これと朝鮮在住者宛の手紙等を取り纒めて梱包し、貨物自動車二台に積載し、眞夜中ひそかに海岸近くまで運搬したのであるが、當時海上においても陸上においても密輸出の取締が特に厳重であり、ために船舶も海岸に近寄ることができない情況にあり從つて被告人等も遂に船積みすることができなかつたことが認められる。被告人等の密輸出遂行行爲が既に上記の程度に進捗している以上は、判示關税法第七六條第一項にいわゆる「輸出を図りたる者」に該ること勿論であるばかりでなく、また、貿易等臨時措置令第四條第一項にいわゆる「輸出しようとした者」にも該るものと云はなければならない。
關税法第七六條第一項にいわゆる「輸出を図りたる者」及び貿易等臨時措置令第四條第一項にいわゆる「輸出しようとした者」にあたる事例
關税法(昭和25年4月30日法律117號による改正前)76條1項,貿易等臨時措置令(昭和21年6月勅令328號)1條,貿易等臨時措置令(昭和21年6月勅令328號)4條1項
判旨
密輸出物資を買入れ、梱包して貨物自動車で真夜中に海岸付近まで運搬した行為は、取締りの厳重さゆえに船積みが困難な状況下であっても、関税法上の「輸出ヲ図リタル」行為および貿易等臨時措置令上の「輸出しようとした」行為に該当する。
問題の所在(論点)
関税法76条1項の「輸出ヲ図リタル者」および貿易等臨時措置令4条1項の「輸出しようとした者」の意義、すなわち、密輸出における実行の着手時期が問題となる。
規範
密輸出罪の実行の着手(輸出を「図る」または「しようとする」行為)は、輸出の実現に向けた客観的な危険性を有する行為が開始されたか否かによって決せられる。具体的には、輸出物資の準備、梱包、運搬といった一連の行為が、密航船への積み込みを直前に控えた段階まで進捗していれば、たとえ外部的事情により積み込みが完了しなくとも、実行の着手があったと認められる。
事件番号: 昭和24(れ)1946 / 裁判年月日: 昭和25年1月19日 / 結論: 棄却
一 原判決の認定した本件犯罪事實は、要するに、被告人A、同Bは、原審相被告人C、同D及び第一審相被告人Eと共謀の上相共に物資を石川縣a港から船積みして朝鮮に密輸出しようと企て、被告人Aにおいて、判示のごとく昭和二二年一一月中右目的に使用するため機帆船F丸を買い取り、その修理艤装を進め同年一二月中旬頃迄の間に燃料その他消…
重要事実
被告人らは朝鮮向けの密輸出を企て、多量の物資を買入れるとともに、朝鮮在住者宛の手紙等をとりまとめて梱包した。その後、これらを貨物自動車2台に積載し、真夜中にひそかに海岸近くまで運搬した。しかし、当時は海上・陸上ともに密輸出の取締りが特に厳重であり、予定していた船舶が海岸に近寄ることができない状況であったため、最終的に物資を船積みすることができなかった。
あてはめ
被告人らは、単に物資を準備しただけでなく、密輸出を目的として梱包を済ませ、さらに発覚を免れるため真夜中に貨物自動車を用いて海岸付近という積込地点の至近まで運搬している。この段階において、密輸出の遂行行為は客観的に見て相当程度に進捗しており、輸出という結果発生に向けた直接的かつ具体的な危険性が生じているといえる。海上・陸上の取締りが厳重であったために船舶が接岸できず船積み不能となった事実は、既に生じた実行の着手の認定を左右するものではない。
結論
被告人らの行為は、関税法上の「輸出ヲ図リタル」行為および貿易等臨時措置令上の「輸出しようとした」行為に該当する。
実務上の射程
本判決は、行政法規の罰則における実行の着手時期について、物理的な輸出行為(船積み等)に至る前であっても、密輸出に向けた高度な準備・運搬行為があれば未遂罪としての処罰が可能であることを示したものである。答案上は、結果発生の具体的危険性が高まった段階を捉えて「図る」等の文言に該当させる際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(れ)1208 / 裁判年月日: 昭和25年11月10日 / 結論: 棄却
一 本件においてA丸が舞鶴港から福井縣三国港に向け出航する予定であつたことは所論のとおりであるが被告人等は右三国港から朝鮮向けの密航船があること及び同船に連絡する船が舞鶴港から出航することを聞知し此の機会を利して朝鮮えの物品の密輸出を企て判示物件をA丸に積込んだものであり原判決挙示の証拠によればその頃密航船が航行してい…
事件番号: 昭和27(あ)6454 / 裁判年月日: 昭和29年5月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実行の着手は、犯行を企図した意思が外部に現れた行為といえるか否かによって判断され、密輸出の予備行為を超え、客観的に密輸出に至る危険性が認められる行為があった場合に認められる。 第1 事案の概要:被告人A及びBは、貨物を朝鮮へ密輸出することを企図し、互いに共謀した。被告人らは、密輸出の実現に向けて具…
事件番号: 昭和25(れ)945 / 裁判年月日: 昭和25年9月28日 / 結論: 棄却
所論鑑定人Aの鑑定の趣旨が、原判決摘示の通り、判示B丸を以てすれば冬期においても周到なる注意に依つて天候を見定めて出航すればa港より朝鮮への渡航は可能であるとするにあること、その鑑定書の記載自体によつて明瞭である。犯人が客観的に犯罪の遂行に可能な手段を以てその實行に着手すれば、犯行實現の危険性あること勿論であるから、偶…
事件番号: 昭和24新(れ)458 / 裁判年月日: 昭和25年5月30日 / 結論: 棄却
一 昭和二一年勅令第二七七號關税法の罰則等の特例に關する件第一條第二項に所謂「輸出しようとした者」とは、目的の物品を、日本領土外に仕向けられた船舶に積載する行爲の實行には達しなくても、輸出のための單なる準備行爲の範圍を超えて、右積載行爲に接着近接した手段行爲の遂行に入つた者を指稱することは當裁判所の判例の示すところであ…