女性労働者につき労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は,原則として「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」9条3項の禁止する取扱いに当たるが,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき,又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易な業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは,同項の禁止する取扱いに当たらない。
女性労働者につき妊娠中の軽易な業務への転換を契機として降格させる事業主の措置の,「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」9条3項の禁止する取扱いの該当性
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律9条3項,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律施行規則2条の2第6号,労働基準法65条3項
判旨
女性労働者が妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格(職位の剥奪等)を受けた場合、当該労働者が自由な意思に基づき合理的な理由をもって承諾したと客観的に認められるか、または業務上の必要性から降格を回避できない等の特段の事情がない限り、均等法9条3項に違反し無効である。
問題の所在(論点)
妊娠中の女性労働者が労働基準法65条3項に基づき軽易な業務への転換を請求した際、これに際して管理職(副主任)を免ずる措置が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(均等法)9条3項の禁止する「不利益な取扱い」に該当し無効となるか。
規範
1. 均等法9条3項は、母性尊重と職業生活の充実を目的とする強行規定であり、軽易業務への転換を理由とする不利益取扱いは原則として禁止される。 2. 転換を契機とする降格が例外的に許容されるのは、以下の場合に限られる。 (1) 労働者が、措置による有利・不利な影響(職務内容、負担、労働条件等)について十分な説明を受け、理解した上で自由な意思に基づき承諾したと認めるに足りる「合理的な理由」が客観的に存在すること。 (2) 降格させずに転換させることに円滑な業務運営等の「業務上の必要性」から支障がある場合で、同項の趣旨に反しないと認められる「特段の事情」が存在すること。
重要事実
上告人は理学療法士として副主任の職位にあり、訪問リハビリ業務に従事していたが、第2子妊娠に伴い負担の小さい病院リハビリ業務への転換を希望した。被上告人はこれに応じたが、同時に副主任の職位を免じた(本件措置)。上告人は一時的にこれを受け入れたが、育児休業終了後も復職後の副主任復帰が予定されておらず、代わりに後輩が副主任に就任していたことから抗議。被上告人は、上告人の同意があり、かつ人事配置上の裁量の範囲内であると主張した。
あてはめ
1. 本件措置により上告人は職位と手当(月額9500円)を失う重大な不利益を受けている。一方で、業務負担が軽減された実態や有利な影響は不明である。 2. 上告人は措置時に十分な説明を受けておらず、育児休業後の復帰不能についても認識を得る機会がないまま「渋々」了解したに過ぎない。したがって、自由な意思に基づく承諾の「合理的な理由」があるとはいえない。 3. リハビリ科の組織実態や、副主任のまま配置することによる具体的支障(業務上の必要性)についても十分に審理されておらず、直ちに「特段の事情」を肯定することはできない。
結論
本件措置を均等法9条3項に違反しないとした原審の判断には、審理不尽及び法令解釈の誤りがある。原判決を破棄し、特段の事情の存否等を更に審理させるため本件を広島高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
本判決は「マタハラ(マタニティハラスメント)」に対する司法判断の厳格な枠組みを提示した。単なる「形式的な同意」や「人事裁量」では足りず、労働者への説明の質や、休業後の原職復帰の可否を含めた実質的な不利益の程度を考慮すべきとしている。
事件番号: 令和1(受)1055 / 裁判年月日: 令和2年10月13日 / 結論: その他
私立大学の教室事務を担当する無期契約労働者に対して賞与を支給する一方で,同事務を担当する時給制のアルバイト職員である有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,次の(1)~(5)など判示の事情の下においては,労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当た…