従業員が,被害妄想など何らかの精神的な不調のために,実際には事実として存在しないにもかかわらず,約3年間にわたり盗撮や盗聴等を通じて自己の日常生活を子細に監視している加害者集団が職場の同僚らを通じて自己に関する情報のほのめかし等の嫌がらせを行っているとの認識を有しており,上記嫌がらせにより業務に支障が生じており上記情報が外部に漏えいされる危険もあると考えて,自分自身が上記の被害に係る問題が解決されたと判断できない限り出勤しない旨をあらかじめ使用者に伝えた上で,有給休暇を全て取得した後,約40日間にわたり欠勤を続けたなど判示の事情の下では,上記欠勤は就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤に当たるとはいえず,上記欠勤が上記の懲戒事由に当たるとしてされた諭旨退職の懲戒処分は無効である。
従業員の欠勤が就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤に当たるとしてされた諭旨退職の懲戒処分が無効であるとされた事例
労働基準法89条,労働契約法15条,労働契約法16条
判旨
精神的な不調により正当な理由のない欠勤を続けていると疑われる労働者に対し、使用者は精神科医による健康診断の実施や休職等の検討を行うべきであり、これらを怠ってなされた諭旨退職の懲戒処分は、懲戒事由を欠き無効である。
問題の所在(論点)
労働者が精神的不調により現実には存在しない被害を理由として欠勤を続けた場合、当該欠勤が就業規則上の「正当な理由のない無断欠勤」という懲戒事由に該当するか。また、使用者が懲戒処分を行う前に尽くすべき配慮義務の程度が問われた。
規範
労働者が精神的な不調により欠勤を続けていると認められる場合、使用者は、就業規則等に基づき精神科医による健康診断を実施し、その結果に応じて治療の勧告や休職等の処分を検討すべきである。これらの対応を採ることなく、欠勤の理由が客観的事実に基づかないという一点のみをもって、直ちに「正当な理由のない無断欠勤」として懲戒処分を行うことは、社会通念上不適切であり、懲戒事由の存在を欠くものとして無効となる。
重要事実
従業員Xは、精神的不調(被害妄想)により、同僚らから監視・嫌がらせを受けていると誤認し、会社に調査や休職を求めた。会社はこれを拒否したが、Xは問題解決まで出勤しない旨を告げ、有給消化後、約40日間にわたり欠勤した。会社は、Xの主張する被害が事実無根であるとして、これを「正当な理由のない無断欠勤」と断じ、就業規則に基づき諭旨退職処分(本件処分)に処した。なお、会社の就業規則には必要時に臨時健康診断を行う規定が存在していた。
あてはめ
Xの欠勤は精神的不調に起因するものであり、不調が解消されない限り出勤しないことが予想される状況であった。会社は就業規則上、臨時の健康診断を実施し得る立場にありながら、精神科医の診断や休職等の検討を一切行っていない。Xの訴えが客観的事実に基づかないからといって、直ちに無断欠勤と評価することは、精神的不調を抱える労働者への対応として適切ではない。したがって、本件欠勤は「正当な理由のない無断欠勤」には当たらないと解するのが相当である。
結論
本件処分は、就業規則所定の懲戒事由を欠くため、無効である。
実務上の射程
メンタルヘルス不調が疑われる従業員の勤怠不良に対し、安易な懲戒処分は許されないとする「ケア的措置の優先」を示した重要判例。実務上、懲戒解雇等の有効性を論じる際、懲戒事由の存否(客観的合理的理由)の段階において、使用者が回避努力(健康診断受診命令や休職制度の適用)を尽くしたかが決定的な判断要素となる。
事件番号: 平成24(受)2231 / 裁判年月日: 平成26年10月23日 / 結論: 破棄差戻
女性労働者につき労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は,原則として「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」9条3項の禁止する取扱いに当たるが,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する…
事件番号: 平成16(受)918 / 裁判年月日: 平成18年10月6日 / 結論: 破棄自判
従業員が職場で上司に対する暴行事件を起こしたことなどが就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとして,使用者が捜査機関による捜査の結果を待った上で上記事件から7年以上経過した後に諭旨退職処分を行った場合において,上記事件には目撃者が存在しており,捜査の結果を待たずとも使用者において処分を決めることが十分に可能であったこと,…
事件番号: 平成23(受)1259 / 裁判年月日: 平成26年3月24日 / 結論: その他
労働者に過重な業務によって鬱病が発症し増悪した場合において,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,使用者の安全配慮義務違反等に基づく損害賠償の額を定めるに当たり,当該労働者が自らの精神的健康に関する一定の情報を使用者に申告しなかったことをもって過失相殺をすることはできない。 (1) 当該労働者は,鬱病発症以前の数か…