従業員が職場で上司に対する暴行事件を起こしたことなどが就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとして,使用者が捜査機関による捜査の結果を待った上で上記事件から7年以上経過した後に諭旨退職処分を行った場合において,上記事件には目撃者が存在しており,捜査の結果を待たずとも使用者において処分を決めることが十分に可能であったこと,上記諭旨退職処分がされた時点で企業秩序維持の観点から重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況はなかったことなど判示の事情の下では,上記諭旨退職処分は,権利の濫用として無効である。
従業員が職場で上司に対する暴行事件を起こしたことなどが就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとして暴行事件から7年以上経過した後にされた諭旨退職処分が権利の濫用として無効とされた事例
労働基準法89条
判旨
懲戒事由から長期間が経過した後にされた懲戒処分について、企業秩序維持の観点から当該重い処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認できない場合は、権利の濫用として無効となる。
問題の所在(論点)
懲戒事由となる非違行為から約7年が経過した後になされた懲戒解雇(諭旨退職処分)が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当性を欠くものとして権利濫用となるか。
規範
使用者の懲戒権行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づき認められるが、就業規則所定の事由に該当する場合であっても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認できないときは、権利の濫用として無効となる(労働契約法15条参照)。特に発生から長期間経過後の処分については、処分の遅延に合理的な理由があるか、また現時点での企業秩序維持の必要性が認められるかが判断の要諦となる。
重要事実
上告人らは、平成5年から6年にかけ、上司への暴行・傷害事件(本件各事件)を起こした。会社は捜査機関の判断を待つとして処分を留保し、平成12年の不起訴処分および関連訴訟の確定を経て、事件から約7年が経過した平成13年4月に懲戒解雇(諭旨退職処分)を行った。本件各事件以外にも暴言等の事由があったが、多くは数年以上前のものであった。
事件番号: 昭和36(オ)1226 / 裁判年月日: 昭和38年6月21日 / 結論: 棄却
従業員が会社の承認を得ないで公職に就任したときは懲戒解雇する旨の就業規則条項は、労働基準法第七条の規定の趣旨に反し無効であると解すべきである。
あてはめ
第一に、本件各事件は職場での目撃者も存在し、捜査結果を待たずとも処分決定は十分可能であったため、7年もの長期間懲戒権行使を留保する合理的理由は見出し難い。第二に、通常は不起訴処分であれば重い懲戒は控えるのが一般的であるところ、不起訴後に懲戒解雇相当の処分を行うことは対応の整合性を欠く。第三に、長期間の経過により職場秩序は徐々に回復しており、処分時点において企業秩序維持のために懲戒解雇等の重い処分を必要とする状況にはなかったといえる。したがって、仮に他の懲戒事由を考慮しても、本件処分は客観的に合理的な理由を欠く。
結論
本件諭旨退職処分は権利の濫用として無効であり、これに基づく懲戒解雇も効力を生じない。原判決を破棄し、従業員としての地位確認および賃金支払等を認めた第一審判決を維持する。
実務上の射程
非違行為発覚後、特段の事情なく放置したり、捜査結果を漫然と待って数年後に重い処分を科したりすることは、秩序回復の必要性が消滅したとみなされ、権利濫用となるリスクが高い。迅速な調査と適時の処分が求められる。
事件番号: 平成23(受)903 / 裁判年月日: 平成24年4月27日 / 結論: 棄却
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事件番号: 平成26(受)1310 / 裁判年月日: 平成27年2月26日 / 結論: 破棄自判
会社の管理職である男性従業員2名が同一部署内で勤務していた女性従業員らに対してそれぞれ職場において行った性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた出勤停止の各懲戒処分は,次の(1)~(4)など判示の事情の下では,懲戒権を濫用したものとはいえず,有効である。 (1) 上記男性従業員らは,①うち…