借地借家法32条1項の規定に基づく賃料増減請求により増減された賃料額の確認を求める訴訟の確定判決の既判力は,原告が特定の期間の賃料額について確認を求めていると認められる特段の事情のない限り,前提である賃料増減請求の効果が生じた時点の賃料額に係る判断について生ずる。 (補足意見がある。)
借地借家法32条1項の規定に基づく賃料増減請求により増減された賃料額の確認を求める訴訟の確定判決の既判力
借地借家法32条1項,民訴法114条1項,民訴法134条
判旨
賃料増減額確認請求訴訟の確定判決の既判力は、特定の期間の確認を求めていると認められる特段の事情がない限り、前提となる賃料増減請求の効果が生じた時点の賃料額に係る判断について生じる。したがって、前訴の係属中にされた新たな賃料増減請求に基づく賃料額の主張は、前訴判決の既判力に抵触しない。
問題の所在(論点)
賃料増減額確認請求訴訟の訴訟物は何か。また、前訴の口頭弁論終結前にされた新たな賃料増減請求に基づく賃料額の主張は、前訴確定判決の既判力(民事訴訟法114条1項)により遮断されるか。
規範
賃料増減請求権(借地借家法32条1項)は形成権であり、行使により将来に向かって客観的に相当な額の賃料を確定させる効果を生じさせる。賃料増減額確認請求訴訟の既判力の範囲について、賃貸借は継続的法律関係であり、特定の時点の賃料が確定すれば以後の支払につき任意の履行が期待され紛争の直接的解決が図られる。したがって、請求の趣旨において期間が限定されていない「一般的形態の請求」の場合、確認の対象は「賃料増減請求の効果が生じた時点の賃料額」であると解すべきであり、原告が特定の期間(例:口頭弁論終結時まで)の賃料額について確認を求めていると認められる特段の事情のない限り、既判力は当該時点の賃料額に係る判断についてのみ生じる。
重要事実
賃借人(承継前被上告人)は、平成16年4月1日からの賃料減額を求める訴訟(前件本訴)を提起した。これに対し賃貸人(上告人X1)は、平成17年8月1日からの増額を求める反訴(前件反訴)を提起した。その後、上告人X1は前件訴訟の1審係属中の平成19年6月30日、さらなる増額請求(本件賃料増額請求)を行ったが、前件訴訟が遅滞することを懸念し、別訴での解決を期して前件訴訟には追加しなかった。前件訴訟は平成20年に判決が確定した。その後、上告人らが本件賃料増額請求に基づく賃料額の確認を求めて別訴(本件訴訟)を提起したところ、前件口頭弁論終結時前の事情であるとして既判力抵触が問題となった。
あてはめ
前件訴訟において、承継前被上告人及び上告人X1は、請求の趣旨で賃料額の確認を求める期間を特定していなかった。また、前件訴訟の経過において、本件賃料増額請求がなされた際、裁判所の訴訟指揮や当事者の上申により、当該請求を前件訴訟の対象外として別訴で扱う方針が示唆されていた。このような訴訟経過に照らせば、当事者が特定の期間の賃料額について確認を求めていたという「特段の事情」は認められない。そうすると、前訴判決の既判力は、各増減請求時の時点における賃料額の判断に限定される。本件で主張されているのは、前件訴訟の基準時1・2とは異なる基準時3(本件賃料増額請求時)における賃料額であり、前訴の訴訟物とは別個の法律関係である。
結論
本件賃料増額請求による賃料増額の主張は、前訴判決の既判力に抵触せず、許される。
実務上の射程
賃料増減額確認請求の訴訟物を「時点説」で確定させた重要判例である。答案上は、前訴の標準時前の事実であっても、新たな形成権(増減請求権)の行使に基づくものであれば、訴訟物が異なるため既判力は及ばないという論理で用いる。期間説(口頭弁論終結時までの賃料額を訴訟物とする説)を排斥した理由として、処分権主義や手続の簡明性、実務上の運用を強調することが有効である。
事件番号: 昭和45(オ)262 / 裁判年月日: 昭和45年6月4日 / 結論: 棄却
借家法七条に基づく賃料増額の請求がされたときは、その意思表示が賃借人に到達した日の分から増額の効果が生ずる。
事件番号: 平成12(受)123 / 裁判年月日: 平成15年10月21日 / 結論: その他
建物賃貸借契約の当事者は,契約に基づく建物の使用収益の開始前に,借地借家法32条1項に基づいて賃料の額の増減を求めることはできない。
事件番号: 昭和28(オ)865 / 裁判年月日: 昭和29年10月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告審において、原審で主張しなかった事項を前提として原判決の違法を主張することは認められない。 第1 事案の概要:上告人が、原審(控訴審)において主張していなかった事項を前提として、原判決には違法がある旨を主張し、最高裁判所に上告を提起した事案である。 第2 問題の所在(論点):原審(下級審)で主…