1 同一被害者に対し約4か月間又は約1か月間という一定の期間内に反復累行された一連の暴行によって種々の傷害を負わせた事実については,その暴行が,被告人と被害者との一定の人間関係を背景として,共通の動機から繰り返し犯意を生じて行われたものであることなどの事情(判文参照)に鑑みると,全体を一体のものと評価し,包括して一罪と解することができる。 2 包括一罪を構成する一連の暴行による傷害については,本件のような訴因(判文参照)であっても,共犯者,被害者,期間,場所,暴行の態様及び傷害結果を記載することをもって,その特定に欠けるところはない。
1 同一被害者に対し一定の期間内に反復累行された一連の暴行によって種々の傷害を負わせた事実について,包括一罪とされた事例 2 包括一罪を構成する一連の暴行による傷害について,訴因の特定に欠けるところはないとされた事例
(1,2につき)刑法204条 (2につき)刑訴法256条3項
判旨
一定期間内に、特定の支配関係や共通の動機に基づき、同態様の暴行を反復累行して傷害を負わせた場合、個別の暴行と傷害の対応関係を特定できずとも、全体を包括して一罪(包括一罪)として訴因を特定することが許容される。
問題の所在(論点)
数回にわたる暴行により傷害が生じた事案において、個別の実行行為(暴行)と結果(傷害)の対応関係を特定せず、一定期間の暴行を包括して一罪として訴因を特定することが認められるか。
規範
訴因の特定(刑事訴訟法256条3項)は、他の犯罪事実との区別が可能であり、かつ構成要件該当性を判定できる程度になされる必要がある。一定期間内に同態様の暴行が反復され、個別の暴行と結果の対応関係が不明な場合であっても、①被害者との人間関係(支配状況等)、②場所的限定、③共通の動機、④暴行態様の共通性、⑤一人の被害者に生じた傷害結果という事情に鑑み、全体を一体のものと評価して包括一罪と解することができるならば、一連の暴行・傷害を包括的に記載して訴因を特定することも適法である。
事件番号: 平成13(あ)318 / 裁判年月日: 平成14年7月18日 / 結論: 棄却
「被告人は,単独又は甲及び乙と共謀の上,平成9年9月30日午後8時30分ころ,福岡市a区所在のビジネス旅館Ab階c号室において,被害者に対し,その頭部等に手段不明の暴行を加え,頭蓋冠,頭蓋底骨折等の傷害を負わせ,よって,そのころ,同所において,頭蓋冠,頭蓋底骨折に基づく外傷性脳障害又は何らかの傷害により死亡させた。」と…
重要事実
被告人が、被害者Aを約4か月間、被害者Eを約1か月間、暴力や経済的統制を通じて支配下に置き、自宅や車内等の限定された場所で、憂さ晴らし等の共通の動機に基づき、ストーブへの押し当てや金属バットでの殴打、燃料をかけた点火等の暴行を多数回繰り返した事案。検察官は、個別の暴行と傷害の発生・悪化の対応関係を特定せず、期間・場所・暴行の態様・傷害結果を包括的に示して各1個の傷害罪として起訴した。
あてはめ
本件では、被告人と各被害者の間の支配的・服従的な人間関係を背景に、ある程度限定された場所で、共通の動機から主として同態様の暴行が反復累行されている。個別の機会の暴行と傷害の発生・悪化との対応関係を個々に特定することは困難であるが、結局は一人の被害者の身体に一定の傷害を負わせたものである。このような事情の下では、各事件の全体を一体のものと評価して包括一罪と解することが可能である。したがって、訴因に記載された共犯者、被害者、期間、場所、暴行態様、傷害結果により、他の犯罪事実との区別が可能であり、かつ傷害罪の構成要件該当性の判定も可能であるといえる。
結論
本件各訴因は、他の犯罪事実との区別が可能で構成要件の判定に足りる程度に具体的に明らかにされており、訴因の特定に欠けるところはない。
実務上の射程
虐待や監禁に伴う暴行など、反復継続的に行われる暴行・傷害事件において、個別の事実特定が困難な場合の訴因構成の指針となる。実務上は「包括一罪」として構成できるかが鍵となり、本判決が挙げた5つの要素(人間関係、場所、動機、態様、結果の共通性)をあてはめて論じるべきである。
事件番号: 昭和25(れ)1979 / 裁判年月日: 昭和26年5月4日 / 結論: 棄却
所論指摘の鑑定書の死因に関する記載は単なる空な想像を記載したものではなく、学識経験者がそれにより実験した事実に基ずき推測した事項を記載したもの(旧刑訴第二一九条、第二二八条第二〇六条参照)であることは右後の鑑定書の記載に照し極めて明瞭であるから、これを証拠に供した原 判決には何等所論のような違法はないのである。
事件番号: 平成27(あ)703 / 裁判年月日: 平成28年3月24日 / 結論: 棄却
1 同時傷害の特例を定めた刑法207条は,共犯関係にない二人以上が暴行を加えた事案において,検察官が,各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において行われたこと,すなわち同一の機会に行われたものであることの証明をした場合,各行為者において,…
事件番号: 平成13(あ)670 / 裁判年月日: 平成17年12月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】筋弛緩剤を用いた5名の殺害および死体遺棄事件において、動機の身勝手さ、犯行態様の残虐性、結果の重大性を鑑みれば、反省の情等の有利な事情を考慮しても死刑判決の維持は正当である。 第1 事案の概要:被告人は、約1年4か月の間に、職場の同僚、知人、アルバイト、取引先女性ら計5名を、筋弛緩剤を注射する方法…