「被告人は,単独又は甲及び乙と共謀の上,平成9年9月30日午後8時30分ころ,福岡市a区所在のビジネス旅館Ab階c号室において,被害者に対し,その頭部等に手段不明の暴行を加え,頭蓋冠,頭蓋底骨折等の傷害を負わせ,よって,そのころ,同所において,頭蓋冠,頭蓋底骨折に基づく外傷性脳障害又は何らかの傷害により死亡させた。」との傷害致死の訴因は,暴行態様,傷害の内容,死因等の表示が概括的であるが,検察官において,当時の証拠に基づき,できる限り日時,場所,方法等をもって罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものである以上,訴因の特定に欠けるところはない。
暴行態様,傷害の内容,死因等の表示が概括的であっても傷害致死罪の訴因の特定に欠けるところはないとされた事例
刑法205条,刑訴法256条3項
判旨
傷害致死罪の訴因において、暴行態様、傷害の内容、死因等の表示が概括的であっても、当時の証拠に基づきできる限り特定されたものであれば、訴因の特定に欠けるところはない。
問題の所在(論点)
暴行の態様、傷害の内容、死因等の表示が概括的な訴因について、刑事訴訟法256条3項の定める訴因の特定を欠くのではないか。
規範
訴因の特定(刑事訴訟法256条3項)は、他の犯罪事実との区別(識別機能)及び被告人の防御の範囲を明示する(防御機能)ために必要とされる。もっとも、証拠関係に照らして不明瞭な領域が残る場合には、検察官において、当時の証拠に基づき、できる限り日時、場所、方法等をもって罪となるべき事実を特定して明示したといえるならば、訴因の特定に欠けるところはないと解すべきである。
重要事実
被告人が単独又は他2名と共謀の上、ビジネス旅館にて被害者に手段不明の暴行を加え、頭蓋底骨折等の傷害を負わせて死亡させたという傷害致死の予備的訴因が追加された。当時の証拠関係では、致死的な暴行が加えられたことは明らかであったが、暴行態様、傷害の詳細な内容、直接の死因等については、十分な供述が得られておらず不明瞭な領域が残っていた。
事件番号: 平成23(あ)1224 / 裁判年月日: 平成26年3月17日 / 結論: 棄却
1 同一被害者に対し約4か月間又は約1か月間という一定の期間内に反復累行された一連の暴行によって種々の傷害を負わせた事実については,その暴行が,被告人と被害者との一定の人間関係を背景として,共通の動機から繰り返し犯意を生じて行われたものであることなどの事情(判文参照)に鑑みると,全体を一体のものと評価し,包括して一罪と…
あてはめ
本件訴因は、暴行態様を「手段不明の暴行」とし、死因を「外傷性脳障害又は何らかの傷害により死亡」とするなど、概括的な記載にとどまっている。しかし、当時の証拠関係において、被害者の死亡という結果や暴行の事実は認められるものの、具体的な態様や死因の細部を裏付ける直接的な証拠は不足していた。このような状況下で、検察官は当時の証拠に基づき、日時、場所を明記した上で、可能な限り具体的に事実を摘示しているといえる。したがって、被告人の防御に支障を来すほど不明確ではなく、他の事実との識別も可能である。
結論
本件訴因は刑事訴訟法256条3項の要件を満たし、特定に欠けるところはない。
実務上の射程
死因や暴行態様が科学的・証拠的に特定困難な事案(密室殺人や乳幼児揺さぶり、本件のような暴行死等)において、概括的訴因の許容性を判断する際のリーディングケースとなる。実務上は、検察官が「当時の証拠に基づきできる限り特定したか」が判断の鍵となる。
事件番号: 昭和25(れ)1979 / 裁判年月日: 昭和26年5月4日 / 結論: 棄却
所論指摘の鑑定書の死因に関する記載は単なる空な想像を記載したものではなく、学識経験者がそれにより実験した事実に基ずき推測した事項を記載したもの(旧刑訴第二一九条、第二二八条第二〇六条参照)であることは右後の鑑定書の記載に照し極めて明瞭であるから、これを証拠に供した原 判決には何等所論のような違法はないのである。