所論指摘の鑑定書の死因に関する記載は単なる空な想像を記載したものではなく、学識経験者がそれにより実験した事実に基ずき推測した事項を記載したもの(旧刑訴第二一九条、第二二八条第二〇六条参照)であることは右後の鑑定書の記載に照し極めて明瞭であるから、これを証拠に供した原 判決には何等所論のような違法はないのである。
鑑定書の死因に関する記載の証拠力
旧刑訴法219条,旧刑訴法206条,旧刑訴法336条
判旨
致死罪の認定において、特定の部位への特定の傷害事実を個別に特定せずとも、加えた暴行の態様と死因との因果関係が総合的に認められるのであれば、犯罪の成立を認めることができる。
問題の所在(論点)
傷害致死罪における傷害部位の特定の要否、および鑑定人の推測を記載した書面の証拠能力。刑法205条の適用に関し、致死の原因となった傷害の具体的特定が犯罪成立の要件となるかが問題となった。
規範
傷害致死罪等の結果的加重犯において、致死の原因となった特定の傷害部位や詳細な傷害態様が個別具体的に特定されない場合であっても、被告人らによる一連の暴行と被害者の死亡との間に因果関係が認められるならば、有罪の認定を妨げない。また、鑑定書等の証拠は、それが学識経験に基づく推測事項の記載であれば証拠能力を有し、他の証拠と総合して事実認定に供することが可能である。
重要事実
被告人らは共謀の上、被害者Aに対し、各人による各種の暴行を加えた。被害者はその結果、外傷性ショックにより死亡するに至った。弁護側は、原判決において被害者の「いかなる箇所にいかなる傷害を与えたか」が判明していないこと、および死因に関する鑑定書の記載が断定ではなく想像(推測)に基づいていることから、証拠不十分および証拠法則違反を主張して上告した。
事件番号: 平成13(あ)318 / 裁判年月日: 平成14年7月18日 / 結論: 棄却
「被告人は,単独又は甲及び乙と共謀の上,平成9年9月30日午後8時30分ころ,福岡市a区所在のビジネス旅館Ab階c号室において,被害者に対し,その頭部等に手段不明の暴行を加え,頭蓋冠,頭蓋底骨折等の傷害を負わせ,よって,そのころ,同所において,頭蓋冠,頭蓋底骨折に基づく外傷性脳障害又は何らかの傷害により死亡させた。」と…
あてはめ
裁判所は、原判決が「特定の箇所に特定の傷害を与えた事実」を個別には認定していないものの、「各人による各種の暴行を加え、よって外傷性ショックによって死亡するに至らしめた」という一連の事実を認定しており、それは挙示された証拠によって十分に認められるとした。また、鑑定書の記載については、単なる空想ではなく学識経験者が実験事実に即して推測した事項であり、他の5つの証拠と総合して死因を認定しているため、証拠として採用することに違法はないと判断した。
結論
被告人らの暴行と死因との因果関係が認定される以上、特定の傷害部位が不明であっても傷害致死罪は成立する。また、専門的知見に基づく推測を含む鑑定書を証拠として総合評価に用いることも正当である。
実務上の射程
集団暴行事件等において、どの打撃が致命傷となったか、あるいは正確にどこを負傷させたかが不明な場合でも、一連の暴行から死の結果が生じたといえる場合には本判例の論理が妥当する。実務上は、因果関係を肯定するための包括的認定の許容範囲を示すものとして活用できる。
事件番号: 昭和35(あ)2042 / 裁判年月日: 昭和36年11月21日 / 結論: 棄却
一 証人の供述中分離することができる部分があるときは、その一部を採り、他の部分を捨てても差支えなく、また、多数の証拠のうち一部において相互に牴触するものがあつても、論理法則または実験則に反しない限り、その全部を綜合して事実を認定しても差支えないものである。(昭和二三年(れ)第一三一二号同二四年二月二四日第一小法廷判決、…