一 証人の供述中分離することができる部分があるときは、その一部を採り、他の部分を捨てても差支えなく、また、多数の証拠のうち一部において相互に牴触するものがあつても、論理法則または実験則に反しない限り、その全部を綜合して事実を認定しても差支えないものである。(昭和二三年(れ)第一三一二号同二四年二月二四日第一小法廷判決、刑集三巻二号二三八頁参照) 二 被告人が、小料理店の土間で被害者から帰宅を促されたことに憤慨のあまり、同人に対しその着用していたワイシヤツの襟を両手でつかんで強く首を締めつけたうえ、同人を同店東側出入口の方向に突き飛ばして右出入口外側道路上に仰向けに転倒させるなどの暴行を加え、即時同所において、同人をして心筋梗塞のために死亡するに至らしめたことの証拠上明白である以上、たとえ、被害者の心臓に高度の肥大を存するうえ、心筋の各所に白色瘢痕化部分を有し、かつ心冠状動脈に顕著な狭穿を存するなど高度重篤な病変があつたとしても、被告人の右暴行と被害者の死亡との間に因果関係が存在する。
一 証人の供述中その一部の採証と事実の認定。 二 相互に矛盾する多数の証拠による事実の認定。 三 傷害致死罪において暴行と死亡との間に因果関係が存在すると認められる事例。
刑訴法318条,刑法205条1項
判旨
実行行為が他の事実と相まって結果を発生させた場合であっても、当該行為と結果との間に因果関係を認めることは妨げられない。
問題の所在(論点)
実行行為以外に結果発生に寄与した他の事実が存在する場合、実行行為と結果との間に刑法上の因果関係(刑法205条1項)が認められるか。
規範
ある行為が他の事実と相まって結果を生ぜしめたときでも、その行為と結果との間に因果関係を認めることは妨げられない。
重要事実
被告人が被害者に対して暴行を加えたところ、その暴行が他の事実(判決文からは詳細不明。一般に介在事情や被害者の特殊事情等を指すと解される)と相まって、最終的に被害者を死亡させるに至った。
あてはめ
本件においては、被告人による暴行が存在し、その後に被害者が死亡するという結果が発生している。たとえその過程において「他の事実」が介在し、暴行と相まって死亡の結果を招いたとしても、直ちに因果関係が中断されるものではない。したがって、被告人の暴行と被害者の死亡との間には依然として因果関係が肯定される。
結論
被告人の暴行と被害者の死亡との間に因果関係は認められ、傷害致死罪(刑法205条1項)が成立する。
実務上の射程
因果関係の判断において、実行行為が唯一の原因である必要はないことを示した。介在事情や被害者の特殊事情がある事案において、実行行為の危険性が結果へと現実化したかという「相当因果関係(または危険の現実化)」を論じる際の基礎となる判例である。
事件番号: 昭和28(あ)2315 / 裁判年月日: 昭和28年9月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】暴行による傷害と死因との関係において、被害者の持病や搬送時の不手際といった介在事情があったとしても、暴行が死因に直接的または複合的に影響を与えている限り、刑法上の因果関係は否定されない。 第1 事案の概要:被告人Bおよび共同被告人Cは、被害者Aに対して下駄を用いるなどの暴行を加え、後頭部に腫瘤を生…