ある行爲が原因となつてある結果を發生した場合に其行爲のみで結果が發生したのでは無くて、他の原因と相まつて結果が發生した場合でも其行爲は結果の發生に原因を與へたものと言うべきであるから、被害者の體質が上告論旨の如く普通人よりも脆弱であるために死亡したものだとしても原判決の認定した被告人の行爲は傷害致死の原因となつたものだと認定することは正常である。
ある行爲が他の事實と相まつて結果を發生した場合の因果關係
刑法205條1項
判旨
被害者の特殊な体質が死亡結果に寄与していたとしても、加害者の暴行がその結果に原因を与えたものである以上、刑法上の因果関係は否定されない。被告人の暴行と死亡との間に他の原因が介在・競合する場合であっても、当該行為が結果発生の直接の原因となったのであれば、傷害致死罪が成立する。
問題の所在(論点)
被害者の特殊な体質が死因に大きく寄与している場合において、暴行という実行行為と死亡結果との間に刑法上の因果関係(刑法205条)が認められるか。
規範
ある行為が原因となって結果が発生した場合、その行為のみで結果が発生したのではなく、他の原因(被害者の特殊体質等)と相まって結果が発生したとしても、その行為が結果発生に原因を与えたといえる場合には、当該行為と結果との間に刑法上の因果関係が認められる。
重要事実
被告人は、69歳の高齢者である被害者を突き倒し、その左背部を数回蹴りつけ、または踏みつける暴行を加えた。被害者は、老齢により骨質が極めて脆弱化しており、かつ過去の肋膜炎の影響で肋膜が癒着して一枚の薄い膜となっていた。通常人であれば傷害に至らない程度の暴行であっても、被害者のこうした特異体質と飲酒の影響により、肋骨骨折から肺臓損傷、気胸、心臓衰弱を来し、死亡するに至った。弁護人は、被害者の体質という共同原因が寄与しており、被告人の行為と死亡との間に因果関係はないと主張した。
あてはめ
本件において、被告人は被害者を突き倒した上で背部を複数回蹴る等の暴行を加えており、これが一連の死亡プロセスの起点となっている。被害者の骨質が指で押すだけで折れるほど脆弱であったことや、肋膜の癒着という身体的条件があったとしても、それらは被告人の暴行によって引き起こされる具体的な損傷(肋骨骨折・肺損傷)を容易にした要因に過ぎない。したがって、被告人の行為が死亡という結果に対して直接的な原因を与えたことは明らかであり、他の原因と相まって結果が発生したとしても、因果関係を肯定するのが相当である。判決文からは、被告人の行為そのものが死因となる機序を始動させた事実が重視されていると解される。
結論
被告人の暴行と被害者の死亡との間には刑法上の因果関係が認められ、傷害致死罪の成立を肯定した原判決の判断は正当である。
実務上の射程
被害者の特殊体質(脆弱な身体条件)が結果を増幅させた事案において、条件関係の延長線上にある行為については、特異な介在事情がない限り広く因果関係を認める立場(条件説に近い運用)を示す。答案上では、実行行為が結果発生の直接の危険を内包し、それが現実化したと論述する際の基礎となる判例である。
事件番号: 昭和28(あ)2315 / 裁判年月日: 昭和28年9月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】暴行による傷害と死因との関係において、被害者の持病や搬送時の不手際といった介在事情があったとしても、暴行が死因に直接的または複合的に影響を与えている限り、刑法上の因果関係は否定されない。 第1 事案の概要:被告人Bおよび共同被告人Cは、被害者Aに対して下駄を用いるなどの暴行を加え、後頭部に腫瘤を生…