判旨
暴行による傷害と死因との関係において、被害者の持病や搬送時の不手際といった介在事情があったとしても、暴行が死因に直接的または複合的に影響を与えている限り、刑法上の因果関係は否定されない。
問題の所在(論点)
刑法上の因果関係の存否。特に、①被害者の特異体質(ヒロポン中毒)や、②実行行為後に介在した第三者の過失(搬送時の頭部落下)が、実行行為と結果との間の因果関係を遮断するか。
規範
実行行為と結果との間に刑法上の因果関係が認められるためには、当該行為から結果が発生することが経験則上相当であるといえることを要する。ただし、被害者に特殊な疾患(ヒロポン中毒等)があったとしても、また結果発生の過程で第三者の過失(搬送時の落下等)が介在したとしても、実行行為が結果の直接的または複合的な原因となっている限り、因果関係を肯定すべきである。
重要事実
被告人Bおよび共同被告人Cは、被害者Aに対して下駄を用いるなどの暴行を加え、後頭部に腫瘤を生じさせる傷害を負わせた。その後、被害者を自動車から搬出する際、介添人が手を滑らせて被害者の頭部を地上に落とす事態が発生した。また、被害者はヒロポン中毒患者であった。最終的に被害者は死亡したため、暴行と死亡との因果関係、および介在した落下事故や特異体質の死因への影響が問題となった。
あてはめ
まず、被害者の後頭部の傷害については、鑑定書および目撃証言との対比から、搬送時の落下事故ではなく被告人らの暴行によって生じたものと認められる。次に、被害者のヒロポン中毒については、鑑定書および証人尋問の結果に照らし、中毒症状が直接または複合的な死因にはなっていないことが明らかである。したがって、搬送時の事故や特異体質という介在事情は死因に寄与しておらず、被告人らの暴行が死因となったものと評価される。
結論
被告人らの暴行と被害者の死亡との間には刑法上の因果関係が認められる。介在事情は因果関係を遮断しない。
実務上の射程
本判決は、因果関係における介在事情の判断(相当因果関係論)の典型的事案として機能する。答案作成上は、介在事情(特異体質や第三者の過失)の寄与度を、鑑定書等の証拠に基づき「直接または複合的死因ではない」と否定することで、実行行為の帰責性を肯定する論理として活用できる。
事件番号: 昭和38(あ)2259 / 裁判年月日: 昭和39年4月9日 / 結論: 棄却
かねてから高度の高血圧症患者として医師の治療を受けていた被害者(当時四八年の女性)が、被告人に左手掌で右頬部を強打されたため、いたく憤激し、執拗にその不法を難詰しているにつれて、興奮の度を増して行き、ために同女の血圧を急激に上昇せしめ、よつて間もなく(二四時間以内)同女をして脳内出血を惹起せしめ、その結果その後約一二日…