夫婦喧嘩の末夫が妻を仰向けに引き倒して馬乗りとなり両手でその頸部を圧迫する等の暴行を加え、因つて特異体質である妻をシヨツク死するに至らしめたときは、致死の結果を予見する可能性がなかつたとしても傷害致死罪を構成する。
傷害致死罪が成立する一事例
刑法205条1項
判旨
傷害致死罪(刑法205条)の成立には、暴行と死亡との間に因果関係があれば足り、致死の結果に対する予見可能性(過失)は不要である。
問題の所在(論点)
傷害致死罪(刑法205条1項)が成立するためには、暴行と死亡結果との間の因果関係に加えて、致死の結果に対する過失(予見可能性)を必要とするか。
規範
傷害致死罪は、傷害の罪(暴行による傷害を含む)の「結果的加重犯」であり、基本犯である暴行ないし傷害と死亡の結果との間に因果関係が存在する限り、致死の結果について予め認識し、または認識する可能性(予見可能性)があることを要しない。
重要事実
被告人は、妻である被害者Aに対し、その意思に反して頸部を扼圧(首を絞める)等の暴行を加えた。この暴行が間接的な誘因となって、被害者はショック死するに至った。弁護人は、被告人において致死の結果を予見することが不可能であった旨を主張し、犯罪の成立を争った。
あてはめ
被告人が被害者の頸部を扼圧した行為は、その態様からして重大な暴行に該当し、違法な基本犯が認められる。この暴行が間接的誘因となってショック死を引き起こした事実は、鑑定書等により裏付けられており、暴行と死亡の間の因果関係が認められる。結果的加重犯においては、暴行から結果が発生したという因果関係があれば足りるため、被告人が死の結果を認識し得たか(予見可能性があったか)否かは、罪の成否を左右しない。
結論
被告人の行為は傷害致死罪を構成する。死亡結果についての予見可能性がない場合であっても、同罪の成立は妨げられない。
実務上の射程
結果的加重犯における過失(予見可能性)の要否に関するリーディングケースである。判例は一貫して予見可能性不要説を採るが、現代の有力説(責任主義を重視する見解)や司法試験の答案作成においては、少なくとも「過失」や「予見可能性」を要件として論じることが一般的であるため、判例の立場を指摘しつつも、実務・答案上は相当因果関係の有無や予見可能性の有無を慎重に検討する姿勢が求められる。
事件番号: 昭和33(あ)742 / 裁判年月日: 昭和34年2月19日 / 結論: 棄却
身体傷害により人を死に致した後、さらに死体を遺棄するにおいては、傷害致死罪のほかに死体遺棄罪を構成する。