傷害罪又は傷害致死罪の成立に必要な主観的要件としては、暴行の意思を必要とし、且つ之を以つて充分である。暴行の意思以外に、さらに傷害の意思を要するものではない。
傷害罪又は傷害致死罪の成立に必要な暴行の意思と傷害の意思の要否
刑法204條,刑法205條
判旨
傷害罪および傷害致死罪の成立には、暴行の意思があれば足り、別個に傷害の意思を必要としない。暴行の意思に基づく行為から結果的に傷害や死亡が生じた場合、結果的加重犯として各罪が成立する。
問題の所在(論点)
傷害罪および傷害致死罪の成立に、暴行の故意に加えて「傷害を負わせる意思(傷害の故意)」が必要か。また、暴行の故意のみでこれらの罪が成立するか。
規範
傷害罪(刑法204条)および傷害致死罪(同205条)の主観的要件としては、暴行の意思(暴行罪の故意)があれば足り、さらに傷害を負わせるという傷害の意思を要しない。暴行の意思に基づいて行われた行為から傷害や死亡の結果が生じた場合、その故意は各罪の成立に十分である。
重要事実
被告人は被害者と口論の末に格闘となり、その格闘中に被害者を負傷・死亡させた。被告人側は、傷害の意思はなく過失致死罪にとどまるべきであることや、正当防衛・過剰防衛の成立、あるいは自首減軽がなされるべきであることを主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人には格闘中のできごととして暴行の意思があったことが原判決の挙示する証拠により認められる。傷害致死罪は結果的加重犯であり、基礎となる暴行について故意があれば、結果として生じた傷害や死亡についてまで故意を必要とするものではない。したがって、暴行の意思が認められる以上、傷害の結果を意図していなかったとしても過失致死罪を適用すべきではなく、傷害致死罪が成立する。また、格闘の経緯から正当防衛等の違法性阻却事由も認められない。
結論
傷害致死罪が成立する。暴行の意思があれば足りるため、傷害の意思の欠如を理由に過失致死罪に減じることはできない。
実務上の射程
結果的加重犯における故意の対象を明確にした判例である。答案上は、傷害罪の故意を「暴行の故意で足りる」とする際の根拠として引用する。なお、本判決は自首減軽(刑法42条1項)が裁判所の裁量であることも示している。
事件番号: 昭和25(れ)1196 / 裁判年月日: 昭和25年11月9日 / 結論: 棄却
一 被告人が被害者に対して大声で「何をボヤボヤしているのだ」等と悪口を浴せ、矢庭に拳大の瓦の破片を投げつけ、なおも「殺すぞ」等と怒鳴りながら側にあつた鍬を振りあげて追いかける気勢を示したので被害者がこれに驚いて難を避けようとして夢中で逃げ出し、約二十間走り続けるうち過つて鉄棒に躓いて顛倒し、打撲傷を負うた場合には、右傷…
事件番号: 昭和25(れ)1003 / 裁判年月日: 昭和25年11月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】傷害罪(刑法204条)の成立には、必ずしも傷害の意思(生理的機能障害を生じさせる認識・認容)があることを要せず、暴行の意思をもって暴行を加え傷害の結果を生じさせた場合も含まれる。 第1 事案の概要:被告人は、被害者に対して暴行を加えたところ、被害者が傷害を負い、その結果として死亡するに至った(傷害…