一 被告人が被害者に対して大声で「何をボヤボヤしているのだ」等と悪口を浴せ、矢庭に拳大の瓦の破片を投げつけ、なおも「殺すぞ」等と怒鳴りながら側にあつた鍬を振りあげて追いかける気勢を示したので被害者がこれに驚いて難を避けようとして夢中で逃げ出し、約二十間走り続けるうち過つて鉄棒に躓いて顛倒し、打撲傷を負うた場合には、右傷害の結果は、被告人の暴行によつて生じたものと解するのが相当である。 二 傷害罪は結果犯であつて、その成立には傷害の原因たる暴行についての意思があれば足り、特に傷害の意思の存在を必要としない。
一 傷害罪において暴行と傷害の結果との間に因果関係ありと認められる特異な事例 二 傷害罪の犯意
刑法204条,刑法208条
判旨
傷害罪の成立には、傷害の原因たる暴行についての意思があれば足り、特に傷害の意思を必要としない。また、被告人の追跡から逃走中に被害者が転倒して負傷した場合であっても、暴行と傷害との間に因果関係を認めることができる。
問題の所在(論点)
1. 傷害罪の成立に「傷害の故意」が必要か(暴行の故意で足りるか)。2. 被害者の転倒という介在事情がある場合、被告人の暴行と被害者の負傷との間に因果関係が認められるか。
規範
1. 傷害罪(刑法204条)は結果犯であり、その成立には傷害の原因たる暴行の故意(暴行罪の意思)があれば足り、特段の傷害の故意(死傷の意思)までは必要としない。2. 暴行と結果との間に、被害者の避難行為等の介在事情があったとしても、当該暴行により傷害を生じさせたものと認められる場合には、相当因果関係が認められる。
重要事実
被告人は、被害者に対し「何をボヤボヤしているのだ」等の罵声を浴びせ、瓦の破片を投げつけた上、「殺すぞ」と怒鳴りながら鍬を振り上げて追いかける気勢を示した。被害者はこれに驚き、難を避けようとして夢中で逃げ出したところ、その途中で誤って鉄棒に躓いて転倒し、打撲傷を負った。
あてはめ
1. 被告人には被害者を傷害する目的がなかったとしても、瓦を投げつけ鍬を振り上げて追うという「傷害の原因たる暴行についての意思」が認められる以上、傷害罪の主観的要件を充足する。2. 被害者の転倒は、被告人の執拗な追行・脅迫という暴行によって誘発された避難行動中に発生したものである。したがって、被害者の躓きという事実が介在していても、被告人の暴行によって傷害が生じたものと解するのが相当である。
結論
被告人に傷害罪が成立する。被告人の行為と被害者の負傷との間には因果関係が認められ、暴行の故意があれば傷害罪の責任を問いうる。
実務上の射程
暴行による傷害の発生(暴行ゆえの傷害)について、暴行罪の故意があれば足りるとする「故意の転用(あるいは結果的加重犯的構成)」を認めた重要判例である。答案上は、被害者の逃走中の転倒事案において因果関係を肯定する根拠として、また傷害罪の故意の範囲を論じる際の規範として引用すべきである。
事件番号: 昭和25(れ)369 / 裁判年月日: 昭和25年6月27日 / 結論: 棄却
傷害罪又は傷害致死罪の成立に必要な主観的要件としては、暴行の意思を必要とし、且つ之を以つて充分である。暴行の意思以外に、さらに傷害の意思を要するものではない。