一 「甲が乙の襟首を掴んでいたので自分は仲裁するつもりで乙の襟首を掴み乙とともにざわざわ倒れたのである」との供述は、右檢は緊急避難行爲又は過剰緊急避難行爲であると主張したものとはいえない。 二 暴行の意思ありとするには無意識中の行爲でない限り暴行の事實が存すれば充分である。
一 緊急避難又は過剰緊急避難行爲の主張とはいえない事例 二 暴行の意思の認定
刑法37條,刑法207條
判旨
傷害罪の成立には、暴行の意思があれば足り、傷害の結果が発生することまでを認識・認容する「傷害の故意」は不要である。また、刑訴法上の「犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実」とは犯罪構成要件以外の事実を指し、犯意の否認はこれに当たらない。
問題の所在(論点)
1. 傷害罪の成立に「傷害の結果」を認識する故意が必要か。 2. 犯意の否認や過失の主張は、刑事訴訟法上の「犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張」に該当するか。
規範
傷害罪(刑法204条)の犯意は、暴行の意思(暴行罪の故意)があれば足り、傷害の結果が生じることまでの認識を要しない。また、被告人の主張が単なる犯意の否認にとどまる場合は、犯罪構成要件以外の事実を指す「犯罪の成立を阻却すべき事実」の主張には該当しない。
重要事実
被告人が被害者に対し、喧嘩をやめさせる目的であった等の自己弁解をしつつ、無意識のうちの動作ではない暴行を加えた。その結果、被害者に傷害が生じたが、被告人は暴行や傷害の犯意がなかったこと、および緊急避難(あるいは過剰避難)に該当することを主張して上告した。
あてはめ
1. 被告人は無意識のうちに暴行したものではないことが証拠上認められる。暴行の事実が存在し、それが無意識の行為でない限り、暴行の意思は認められる。傷害罪は暴行の故意があれば成立し、傷害結果の予見は不要であるため、傷害罪の犯意は認められる。 2. 被告人の「犯意がない」「過失である」との主張は、構成要件要素である犯意そのものの否認にすぎない。これは構成要件以外の違法性阻却事由等を指す「阻却すべき事実」には当たらない。また、緊急避難の主張についても、誰のいかなる権利に対する危難を避けようとしたかの具体的明示がないため、正当な主張とはいえない。
結論
傷害罪の成立に傷害の故意は不要であり、暴行の故意があれば足りる。また、犯意の否認は「犯罪の成立を阻却すべき事実」の主張に当たらないため、原判決が判断を示さなかったことに違法はない。
実務上の射程
傷害罪が暴行罪の「結果的加重犯」であることを明示した重要判例である。答案上、傷害罪の故意を論じる際は、本判例を根拠に「暴行の故意があれば足りる」と短く記述する。また、刑訴法上の「理由不備」を論じる際、構成要件の否認と阻却事由の主張を区別する基準としても活用できる。
事件番号: 昭和30(あ)2734 / 裁判年月日: 昭和31年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】傷害罪は結果犯であるが、その成立には暴行を加える故意があれば足り、傷害の結果を生じさせることまでの認識(傷害の故意)は必要とされない。 第1 事案の概要:本件における具体的な事実は判決文からは不明であるが、被告人側が傷害の結果に対する認識がなかったことを理由に、傷害罪の成立を争って上告したものと推…
事件番号: 昭和23(れ)572 / 裁判年月日: 昭和27年4月17日 / 結論: 棄却
仮りに勾留が違法であるとしても、その一事だけで直ちにその勾留中に行われた検事の被告人に対する聴取書を目して強制又は拷問による供述書であるということができないことも論を待たない。