判旨
傷害罪(刑法204条)の成立には、必ずしも傷害の意思(生理的機能障害を生じさせる認識・認容)があることを要せず、暴行の意思をもって暴行を加え傷害の結果を生じさせた場合も含まれる。
問題の所在(論点)
刑法204条の傷害罪が成立するためには、結果として生じた「傷害」そのものに対する認識・認容(傷害の故意)が必要か。それとも暴行の故意があれば足りるか。
規範
傷害罪の犯意としては、必ずしも傷害の意思があることを必要とせず、暴行の意思をもって暴行を加え、その結果として傷害が生じた場合には、傷害の意思がない場合であっても傷害罪が成立すると解するのが相当である。
重要事実
被告人は、被害者に対して暴行を加えたところ、被害者が傷害を負い、その結果として死亡するに至った(傷害致死の事案)。弁護側は、傷害罪の成立には傷害の意思(故意)が必要であると主張し、暴行の意思のみで傷害致死の結果を問う原判決には違法があると主張した。なお、具体的な暴行態様や被害の詳細については判決文からは不明である。
あてはめ
原審は、各証拠に基づき、被告人が被害者に対して暴行の意思を持って暴行を加えた事実を十分に審理し、認定している。傷害罪は、暴行の故意があれば、そこから生じた傷害結果についても責任を負わせるという趣旨を含むものである。したがって、被告人に傷害を負わせる積極的な意図が欠けていたとしても、暴行の意思に基づく行為から傷害結果が発生した以上、傷害罪の犯意を認めることができる。
結論
傷害罪の成立に傷害の意思は不要であり、暴行の意思をもって傷害の結果を生じさせた場合には傷害罪(およびその結果的加重犯としての傷害致死罪)が成立する。
実務上の射程
事件番号: 昭和25(れ)995 / 裁判年月日: 昭和25年10月6日 / 結論: 棄却
判決の証拠説明は、その証拠の内容を逐一写録するの要なきは勿論、これを摘録することも亦必らずしも必要ではなく、その証拠の題目を掲げ趣旨を摘示する等、その証拠とする内容を認識し得る程度に挙示せられ、よつて如何なる事実がその証拠により若しくは他の証拠と綜合して証明されるかゞ明らかなる程度に判示あれば足るのである。
傷害罪が暴行罪の「結果的加重犯」としての側面を有することを明示した判例であり、現在の実務・通説(暴行故意による傷害罪の成立)の根拠となる。答案上は、傷害罪の故意の有無が争点となる場面で、暴行の故意があれば足りる旨を論証する際に引用すべき基本的な規範である。
事件番号: 昭和23(れ)756 / 裁判年月日: 昭和23年11月13日 / 結論: 棄却
原審に於ては被告人からも、辯護人からも、被告人の行爲が正當防衞に出たものであるということは主張されていないのであるから原審がこの點についての判斷を示さなかつたのは當然である。
事件番号: 昭和44(あ)1112 / 裁判年月日: 昭和44年10月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】急迫不正の侵害に対し、被告人がもっぱら攻撃意思に基づき行為に及んだ場合には、防衛意思が欠如し、また「やむを得ずにした」ものとは解されないため、正当防衛は成立しない。 第1 事案の概要:被告人は被害者から何らかの侵害を受けたが、それに対し被害者への攻撃意思をもって本件行為に及んだ。原審において被告人…
事件番号: 昭和25(れ)400 / 裁判年月日: 昭和25年10月10日 / 結論: 棄却
原判決は、被告人が正犯たるAにおいて判示被害者両名に傷害を加えるに至るかも知れないと認識しながら判示匕首を貸与したところ、右Aが殺人の意思を以つて該匕首により被害者両名を刺殺した場合には、被告人は傷害致死幇助として刑法第二〇五条、同第六二条第一項をもつてこれを処断すべきである。