原判決は、被告人が正犯たるAにおいて判示被害者両名に傷害を加えるに至るかも知れないと認識しながら判示匕首を貸与したところ、右Aが殺人の意思を以つて該匕首により被害者両名を刺殺した場合には、被告人は傷害致死幇助として刑法第二〇五条、同第六二条第一項をもつてこれを処断すべきである。
正犯が人に傷害を加えるべきことを認識して幇助したところ正犯が殺害した場合における幇助者の罪責
刑法38条1項,刑法62条1項,刑法199条,刑法205条,刑法204条
判旨
被告人が傷害の認識で正犯に武器を貸与し、正犯が殺人の意思で殺害に至った場合、刑法38条2項により重い罪(殺人幇助)では処断できず、重なる範囲である「傷害致死の幇助」の既遂罪が成立する。
問題の所在(論点)
幇助犯において、被告人の認識(傷害幇助)と正犯の実行行為・結果(殺人)が一致しない場合に、いかなる範囲で犯罪が成立するか。刑法38条2項の適用範囲が問題となる。
規範
刑法38条2項により、認識した罪(犯意)と発生した事実が異なる場合、重い事実の既遂を論ずることはできず、軽き犯意の限度で既遂を論ずべきである。具体的法定符合説の観点から、両罪が構成要件的に重なり合う範囲において、その範囲内の既遂罪の成立を認める。
重要事実
被告人Bは、正犯Aが被害者らに対して傷害を加えるかもしれないと認識しながら、匕首(あいくち)をAに貸与して犯行を幇助した。しかし、正犯Aは実際には殺人の意思をもって被害者らを刺殺した。被告人において、認識していた事実は「傷害(致死)」であったが、実際に発生した客観的事実は「殺人」であった。
事件番号: 昭和25(れ)1003 / 裁判年月日: 昭和25年11月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】傷害罪(刑法204条)の成立には、必ずしも傷害の意思(生理的機能障害を生じさせる認識・認容)があることを要せず、暴行の意思をもって暴行を加え傷害の結果を生じさせた場合も含まれる。 第1 事案の概要:被告人は、被害者に対して暴行を加えたところ、被害者が傷害を負い、その結果として死亡するに至った(傷害…
あてはめ
被告人の主観は傷害の認識であり、客観的には正犯の殺人行為を幇助した。殺人と傷害致死は、人の生命・身体という保護法益を共通にし、殺人は傷害致死を包含する関係にある。したがって、両者は構成要件的に重なり合う。刑法38条2項に基づき、客観的に発生した重い罪(殺人幇助)ではなく、主観的な犯意である軽い罪(傷害致死幇助)の限度で責任を問うのが相当である。
結論
被告人は傷害致死罪の幇助罪としての責めを負う。
実務上の射程
抽象的法定符合説ではなく具体的法定符合説を前提とし、異なる構成要件間(殺人・傷害)での錯誤がある場合でも、重なり合いが認められる限度(傷害致死)で既遂の成立を認める実務上の確立した基準である。答案では、客観的構成要件該当性を検討した後の「故意(錯誤)」の項目で、38条2項の趣旨と共に論述する。
事件番号: 昭和25(れ)995 / 裁判年月日: 昭和25年10月6日 / 結論: 棄却
判決の証拠説明は、その証拠の内容を逐一写録するの要なきは勿論、これを摘録することも亦必らずしも必要ではなく、その証拠の題目を掲げ趣旨を摘示する等、その証拠とする内容を認識し得る程度に挙示せられ、よつて如何なる事実がその証拠により若しくは他の証拠と綜合して証明されるかゞ明らかなる程度に判示あれば足るのである。
事件番号: 昭和23(れ)756 / 裁判年月日: 昭和23年11月13日 / 結論: 棄却
原審に於ては被告人からも、辯護人からも、被告人の行爲が正當防衞に出たものであるということは主張されていないのであるから原審がこの點についての判斷を示さなかつたのは當然である。
事件番号: 昭和28(あ)5025 / 裁判年月日: 昭和30年10月25日 / 結論: 棄却
被告人が被害者と対面するにおいては攻撃を受ける蓋然性が覆い状況の下に、被害者に対面して謝罪させ相手が攻撃して来たらこれに立ち向うため日本刀一振を拔身のまま携え、被害者の様子を窺ううち、被害者が被告人を認め矢庭に出刃庖丁をもつて突きかかつて来た場合、被害者が不正な侵害は急迫なものといえず、被告人の被害者に加えた傷害行為は…
事件番号: 昭和27(あ)4271 / 裁判年月日: 昭和28年4月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】傷害致死罪と銃砲刀剣類等所持取締令違反(七首の不法携帯)は、観念的競合等の関係にはなく、併合罪の関係にある。 第1 事案の概要:被告人は七首(短刀)を不法に携帯し、それを用いて他人を負傷させ、死亡させた。この事実につき、傷害致死罪と、当時の銃砲刀剣類等所持取締令に基づく不法携帯の罪の罪数が問題とな…