原審に於ては被告人からも、辯護人からも、被告人の行爲が正當防衞に出たものであるということは主張されていないのであるから原審がこの點についての判斷を示さなかつたのは當然である。
正當防衞の主張のない場合における判斷判示の要否
刑訴法360條2項
判旨
不法な侵害を予期した者が、自ら積極的に攻撃を加える意思で侵害を招き、これに乗じて攻撃を加えた場合には、正当防衛(刑法36条)は成立しない。侵害を予期していたにすぎない場合を超え、その機会を積極的に利用して相手を攻撃する主導的・攻撃的意思が認められるときは、急迫不正の侵害の要件を欠くか、防衛の意思を欠くためである。
問題の所在(論点)
相手方の攻撃を予期し、これに乗じて「機先を制するつもり」で攻撃を加えた行為について、刑法36条1項の正当防衛が成立するか。特に、不法な侵害の予期と攻撃的意思がある場合の「急迫性」および「防衛の意思」の有無が問題となる。
規範
正当防衛(刑法36条1項)が成立するためには、「急迫不正の侵害」に対し、「自己又は他人の権利を防衛するため」に、「やむを得ずにした行為」であることが必要である。相手方の侵害を予期していたとしても、直ちに「急迫性」が失われるわけではないが、その機会を利用して相手方に積極的な攻撃を加えようとする「攻撃的意思」をもって侵害に臨んだ場合には、急迫性の要件、あるいは防衛の意思を欠くため、正当防衛は成立しない。
重要事実
被告人は、前夜に盆踊り会場でCらと喧嘩になり、ナイフを振り回すなどの騒動を起こしていた。翌々日の夜、再び盆踊り会場でCらと争いになり、暗闇の中で何者かに殴られた被告人は、Cらが立ち向かってくるものと即断した。被告人は、襲いかかってくる相手の「機先を制するつもり」で、所持していたジャックナイフを振るってCに斬りつけ、穿通性刺創を負わせて死亡させた。
事件番号: 昭和23(れ)1469 / 裁判年月日: 昭和24年7月13日 / 結論: 棄却
一 銃砲等所持禁止令附則大二項所定の所持許可の申請期間は同令第一條第一項第一乃至四號に該當する銃砲等について定められたものであつて、かかる銃砲等についても、右の許可申請をしないときは、右期間内の所持も不法であるとなすこと當裁判所の判例に示されている通りである(昭和二二年(れ)第一八一號、昭和二三年四月一七日第二小法廷判…
あてはめ
被告人は前夜の紛争からCらとの対立を認識しており、当日も暗闇で殴られた際、Cらが立ち向かってくることを予期していた。この状況下で、単に身を守るのではなく、相手の「機先を制するつもり」でナイフを用いる行為は、侵害を逆利用して積極的に攻撃を加える意思(攻撃的意思)の表れといえる。このような主観的態様に基づく反撃は、侵害に直面してやむを得ず行われる「防衛」の範疇を逸脱しており、急迫不正の侵害に対する防衛行為としての評価を充たさない。
結論
被告人の行為は、侵害の機会を利用した積極的な攻撃行為であり、正当防衛の要件を欠く。したがって、傷害致死罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、後に「自ら侵害を招いた場合」や「積極的加害意思」がある場合の正当防衛の成否を論ずる際のリーディングケースの一つとなった。答案上は、急迫性の判断において、単なる侵害の予期にとどまらず、その機会を積極的に利用する意思(積極的加害意思)がある場合に正当防衛が否定されるという論理構成で活用すべきである。
事件番号: 昭和28(あ)5025 / 裁判年月日: 昭和30年10月25日 / 結論: 棄却
被告人が被害者と対面するにおいては攻撃を受ける蓋然性が覆い状況の下に、被害者に対面して謝罪させ相手が攻撃して来たらこれに立ち向うため日本刀一振を拔身のまま携え、被害者の様子を窺ううち、被害者が被告人を認め矢庭に出刃庖丁をもつて突きかかつて来た場合、被害者が不正な侵害は急迫なものといえず、被告人の被害者に加えた傷害行為は…
事件番号: 昭和25(れ)1003 / 裁判年月日: 昭和25年11月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】傷害罪(刑法204条)の成立には、必ずしも傷害の意思(生理的機能障害を生じさせる認識・認容)があることを要せず、暴行の意思をもって暴行を加え傷害の結果を生じさせた場合も含まれる。 第1 事案の概要:被告人は、被害者に対して暴行を加えたところ、被害者が傷害を負い、その結果として死亡するに至った(傷害…
事件番号: 昭和44(あ)1112 / 裁判年月日: 昭和44年10月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】急迫不正の侵害に対し、被告人がもっぱら攻撃意思に基づき行為に及んだ場合には、防衛意思が欠如し、また「やむを得ずにした」ものとは解されないため、正当防衛は成立しない。 第1 事案の概要:被告人は被害者から何らかの侵害を受けたが、それに対し被害者への攻撃意思をもって本件行為に及んだ。原審において被告人…