一 數名の者が最初から爭闘をする目的で兇器を携帶し相手方のいる所に出掛けて行つて爭闘を始めた場合には、右爭闘最中におけるその中の一人の相手方に對する傷害行爲は、味方の一人が相手方の攻撃を受けて危險に瀕したのでその相手方の攻撃を反撃するために行われたものであつても、それは要するに最初から豫定していた傷害行爲ち及んだ迄のことで、自己又は他人の生命身體等を防衞するためやむを得ずしてしたものとはいえないから、正當防衞行爲ということはできない。 二 裁判所が判決において正當防衞になるかならぬかについて判斷を示す必要があるのは、訴訟關係人より特にこの點についての主張があつた場合に限ることは、刑事訴訟法第三六〇條第二項の明定するところである。ところが本件においては、原審において辯護人Dは被告人の行爲が正當防衞に類する行爲であることを情状として述べたにとどまり特に正當防衞の主張をせず、被告人自身もその主張をしなかつたことは原審第三回公判調書により明らかである。從つて原審が判決において特にこの點に關する判斷を示さなかつたのは少しも違法ではない。
一 爭闘者の暴行と正當防衞 二 正當防衞に類する行爲である旨の情状論と正當防衞の主張の有無
刑法36條,刑訴法360條2項
判旨
最初から争闘を目的として凶器を携行し、相手方のいる場所に出向いて争闘を開始した場合には、その最中に味方の危機を救うために反撃したとしても、刑法36条の正当防衛は成立しない。このような行為は最初から予定していた傷害行為に及んだものにすぎず、「やむを得ずにした行為」とは認められないためである。
問題の所在(論点)
数名で争闘を企図し、凶器を準備して相手方を襲撃した場合において、争闘中に味方の窮地を救うために行われた反撃行為について、刑法36条1項の「急迫不正の侵害」に対する「防衛するため、やむを得ずにした行為」といえるか(自招侵害または侵害の予期における正当防衛の成否)。
規範
最初から争闘をする目的で凶器を携帯し、相手方のいる場所に出向いて争闘を開始した場合において、その最中に行われた傷害行為は、たとえ味方が攻撃を受けて危険に瀕したことを契機とする反撃であっても、最初から予定していた傷害行為に及んだものといえ、「自己又は他人の生命身体等を防衛するためやむを得ずしてしたもの」とは認められない(刑法36条の正当防衛は成立しない)。
重要事実
被告人は、Aらと共にCら数名と争闘することを企て、相手方が多人数である場合に備えて傷害を加える意図で小剣を携帯した。被告人らはCらを探し求めて現場へ赴き、争闘を開始した。その際、味方のAが殴打されて昏倒し、さらにCがAに襲いかかろうとする気勢を示したため、被告人はこれを制止するために携行していた小剣でCの胸部を突き刺し、死亡させた。
あてはめ
被告人は最初からCらとの争闘を企図し、万一の場合に傷害を加える目的で小剣を準備して現場に赴いている。このような状況下での突き刺し行為は、たとえAの危機を救うという側面があったとしても、あらかじめ予定していた傷害行為を地で行ったものと評価される。したがって、客観的に急迫不正の侵害に対する防衛の必要性がある状況下での行為とはいえず、正当防衛の要件である「防衛するため」「やむを得ず」といった要素を欠くものと解される。
結論
被告人の行為に正当防衛を適用しなかった原判決は正当であり、傷害致死罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、いわゆる「積極的加害意思」がある場合の正当防衛を否定した初期の重要判例である。答案上は、急迫性の要件または防衛意思の欠如を基礎付ける論理として用いる。最初から攻撃を予期し、それを利用して加害を行う意図で現場に赴いた場合には、正当防衛の成立余地がないことを簡潔に述べる際に引用すべきである。
事件番号: 昭和23(れ)756 / 裁判年月日: 昭和23年11月13日 / 結論: 棄却
原審に於ては被告人からも、辯護人からも、被告人の行爲が正當防衞に出たものであるということは主張されていないのであるから原審がこの點についての判斷を示さなかつたのは當然である。