一 第一審判決が被告人の判示暴行と被告人の受けた判示傷害との間に因果関係の存在を認めたことはその挙示する証拠により肯認できるところであり、かつその因果関係が被告人の判示所為につき傷害罪の刑事責任を負わしめるに十分のものであることは当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第二二号同年一一月一四日第三小法廷判決、昭和二四年(れ)第二八三一号同二五年三月三一日第二小法廷判決、昭和二九年(あ)第三六〇四号同三二年二月二六日第三小法廷判決)の趣旨に徴し肯認できるところである。 二 (第二審判決の認めた事実の要旨)被害者Aは被告人から突き倒されたため昭和二八年一〇月二〇日以後拇指の伸展力に異常があつたが(正しその拇指伸筋腱が受傷直後完全に断裂したとまで認めるべき証拠は記録上必ずしも明白ではない。)その後適切な治療を受けなかつたため同三〇年五、六月までの間に拇指長伸筋腱に完全断裂を生したものである。
暴行と傷害との間に因果関係の存在を認めた事例。
刑法204条
判旨
暴行による傷害罪の成立には、実行行為としての暴行と発生した傷害との間に因果関係の存在を必要とするにとどまり、傷害の結果についての予見を必要としない。
問題の所在(論点)
暴行罪の結果的加重犯としての側面を有する傷害罪において、重い結果である「傷害」の発生について実行行為者の予見が必要か(傷害罪の主観的要件の範囲)。
規範
暴行による傷害罪(刑法204条)の成立要件として、暴行(208条)と傷害の結果との間に因果関係が認められることが必要であるが、傷害の結果に対する予見可能性(故意または過失)があることまでは要しない。
重要事実
被告人が被害者に対して暴行を加えたところ、被害者が傷害を負うに至った事案。被告人側は、傷害の結果について予見がなかったことを理由に傷害罪の成否を争い上告したが、原審は暴行と傷害の間の因果関係を認定した上で、傷害罪の成立を肯定していた。
あてはめ
傷害罪は暴行罪の結果的加重犯としての性質を有するところ、本件において第一審および原判決は、証拠に基づき被告人の暴行と被害者の傷害との間に因果関係が存在することを認めている。結果的加重犯においては、基本となる暴行行為の故意があれば足り、加重された結果に対する予見は不要であるため、因果関係さえ認められれば傷害罪の刑事責任を負わせるに十分である。
結論
暴行と傷害の間に因果関係がある以上、傷害の結果について予見がなくても傷害罪が成立する。
実務上の射程
結果的加重犯全般における基本原理(基本犯の故意があれば結果に対する予見は不要)を確認する判例である。答案上は、傷害罪の検討において「暴行の故意はあるが傷害の故意がない」場面で、本判例を根拠に傷害罪の成立を認める論理を展開する際に用いる。いわゆる「故意あるところ過失あり」の法理の現れとして位置付けられる。
事件番号: 昭和28(あ)2728 / 裁判年月日: 昭和29年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】傷害罪(刑法204条)の成立には、暴行を加えて人を負傷させた場合、暴行の意思があれば足り、必ずしも傷害の故意を必要としない。 第1 事案の概要:本件における具体的な事実は判決文からは不明であるが、被告人側が「傷害の故意がなければ傷害罪は成立しない」旨を主張し、憲法違反を理由に上告した事案である。 …