甲が、乙と共謀のうえ、こもごも丙に暴行を加えたのち、現場から立ち去るに際し、乙において丙に対しなお暴行を加えるおそれが消滅していなかつたのに、格別これを防止する措置を講じなかつたときは、甲乙間の当初の共犯関係は、右の立ち去つた時点で解消したものということはできない。
共犯関係が解消していないとされた事例
刑法60条,刑法205条1項
判旨
共犯関係からの離脱が認められるためには、当初の共謀に基づく実行行為が行われるおそれがある場合、単に立ち去るだけでなく、その危険を解消するための措置を講じる必要がある。これを怠り、成行きに任せて現場を去ったに過ぎない場合は共犯関係が解消したとはいえず、離脱後の他共犯者の行為による結果についても刑事責任を負う。
問題の所在(論点)
実行着手後、一部の共犯者が現場を離脱した後に他の共犯者が暴行を継続して結果が発生した場合に、刑法60条の共同正犯としての責任を負うか。共犯関係の離脱の成否が問題となる。
規範
共犯関係からの離脱が認められるためには、当初の共謀によって形成された物理的・心理的因果性が遮断されることを要する。実行着手後の離脱については、単に自己の実行行為を中止するだけでなく、他の共犯者の実行行為を制止するなど、当初の共謀に基づく実行のおそれを解消するための積極的な措置を講じない限り、共犯関係は解消されない。
重要事実
被告人は共犯者Aとともに、被害者Bに竹刀等で多数回殴打する暴行を加えた。その後、被告人は「おれ帰る」と言い残して現場を立ち去ったが、その際、Aに暴行の中止を求めたり、被害者の救護を頼んだりする等の措置を一切講じなかった。被告人が去った直後、Aは再び激昂して暴行を加え、被害者は死亡したが、その死因が被告人の離脱前の暴行によるものか離脱後のA単独の暴行によるものかは判明しなかった。
あてはめ
被告人が帰宅した時点では、依然として共犯者Aが制裁を加えるおそれが消滅していなかったといえる。にもかかわらず、被告人は「おれ帰る」と告げたのみで、Aに対して暴行を止めるよう求めたり救護を依頼したりするなどの危険を防止する措置を講じていない。これは単に成行きに任せて現場を去ったに過ぎず、当初の共謀に基づく因果性を遮断したとは認められない。したがって、Aとの間の当初の共犯関係は被告人の離脱後も継続しており、その後のAの暴行も当初の共謀に基づくものと解される。
結論
被告人は、離脱後のAの暴行によって生じた死の結果についても傷害致死罪の共同正犯としての責を負う。
実務上の射程
実行着手後の離脱(共犯関係の解消)に関する重要判例である。答案上では、①離脱の意思表示、②因果性の解消(結果発生への寄与の除去)の二要件を定立した上で、本判例を「因果性の解消に向けた積極的措置(制止・救護等)」が欠けていたため離脱を否定した例として引用する。実行着手前の離脱に比して、より厳格な遮断措置が要求される点に注意する。
事件番号: 昭和23(れ)742 / 裁判年月日: 昭和23年11月30日 / 結論: 棄却
一 明示の意思の表示が無くても暗默にでも意思の連絡があれば共謀があつたといい得るのである。 二 公判外の自白と雖適法の證據調を經たものはこれを證據と爲し得ること勿論である。 三 原審の判示する處によれば判示被害者の死亡は被告人兩名の共謀による暴行の結果として發生したものであるから直接死因となつた暴行をした者がたとえ所論…