一 被告人の司法警察官に對する陳述が、司法警察官の強要によるものであることや、右の檢事に對する陳述が、さような司法警察官に對する陳述に根據してなされたものであるというようなことは、被告人が原審公判廷においてさように辯解している以外には、本件記録上これを認め得る何等の資料もない。原審が被告人の右の陳述によつて右の事實を認めるか否かは、その自由な心證によつて決することのできる範圍に屬するもので、原審はその事實を認めず、前記聽取書を適法のものと認めてこれを證據に採り判示事實を認定したのであるから、少しも違法はない。 二 いやしくも他人の身體に對し暴行する意思で暴行を加え、よつて、その他人に傷害を與えた場合には、たとえ傷害の意思がなかつたときでも、傷害罪の責任を負い、又その傷害を與えた結果被害者を死にいたらしめたときは、傷害致死罪の責任を負うことは當然であつて、なお、共同暴行者中の一人が暴行によつて相手方に死傷の結果を與えれば、共同暴行者全員がその死傷の結果について責任を負わなければならぬことも亦もちろんであるから、本件において、被告人と共同して被害者Aに暴行を加えた者の一人である所論Bが右被害者に對して原判示のような傷害を與え、その結果同人を死にいたらしめた以上、被告人も亦傷害致死罪の責任は免れることができない。 三 犯罪構成要件たる事實の大部分が他の證據の裏付によつて認め得られる以上其一部に付ては被告人の自白以外他に證據が無くても刑訴應急措置法第一〇條第三項に違反するものでないこと既に當裁判所の判例とする處で(昭和二二年一二月一六日言渡昭和二二年(れ)第一三六號事件判決参照)今なお變更の要を認めない。
一 強制による自白の主張と檢事の聽取書の證據力 二 共同暴行者の一人の加えた死傷の結果と他の者の責任 三 犯罪構成要件たる事實の一小部分に付き被告人の自白以外他に證據なき場合
刑訴應急措置法10條2項,刑訴應急措置法10條3項,刑法60條,刑法205條1項
判旨
暴行の意思をもって共同して暴行を加えた場合、共犯者の一人が生じさせた死傷の結果について、他の共同正犯者は傷害の意思がなかったとしても傷害致死罪の責任を負う。
問題の所在(論点)
共同暴行の意思はあるが、刃物を用いるなどの傷害・死亡に至らせる具体的な意思がなかった共犯者について、他の共犯者が生じさせた致死の結果まで責任を負わせることができるか(共同正犯における結果的加重犯の成否)。
規範
他人に対し暴行する意思で暴行を加え、よって死傷の結果を生じさせたときは、たとえ傷害の意思がなかったとしても、傷害罪または傷害致死罪の責任を負う(結果的加重犯)。そして、共同暴行者の一人が死傷の結果を生じさせたときは、共同正犯の法理により、共同暴行者全員がその結果について責任を負う。
重要事実
被告人は、他7名の者と共同して被害者Aに暴行を加えようとする意思連絡の下、こもごも暴行を加えた。その共同暴行の際、共犯者の一人であるBが、所持していた小刀で被害者の身体を突き刺して傷害を負わせ、その結果として被害者を死亡させた。
あてはめ
被告人は他の共犯者らと被害者Aに暴行を加える意思連絡を有しており、現に共同して暴行を行っている。この共同暴行の過程において、共犯者Bが暴行の結果として被害者に傷害を負わせ、死亡させるに至った。たとえ被告人自身に傷害の意思がなかったとしても、暴行の意思で暴行に及んだ以上、生じた結果について重い罪責を負うべきであり、共同正犯の関係にある以上、Bによる死傷の結果は被告人の責任に帰属する。
結論
被告人は傷害致死罪の共同正犯としての責任を免れない。原審が同罪の成立を認めたことは正当である。
実務上の射程
結果的加重犯の共同正犯の成立を認めたリーディングケース。答案上は、基本となる暴行について共謀があれば、予期せぬ結果(傷害・死亡)についても、共謀の射程内として連帯責任を負う根拠として用いる。
事件番号: 昭和23(れ)296 / 裁判年月日: 昭和23年10月6日 / 結論: 棄却
一 論旨は、「本件は同時にしかも極めて短時間内に十數名入り亂れての鬪爭の結果發生した傷害事件であつて各傷害行爲の間に連續觀念を容るべき時間的間隔がない。從つて之に對する罰條の適用は單一行爲に基く事犯と爲すべきである」と主張するのである。しかし、右判示事實は、要するに被告人等がA及び同Bの兩名に對して相次いで幾多の暴行と…