覚せい剤の密輸入事件について,被告人から指示を受けていたとする共犯者供述の信用性を否定して被告人を無罪とした第1審判決には事実誤認があるとした原判決は,第1審判決が,受信は記録されていないなどの通話記録の性質に十分配慮せず,それと同共犯者供述との整合性を細部について必要以上に要求するなどしたことや,同共犯者に指示を与えていた第三者の存在に関する抽象的な可能性をもって同共犯者供述の信用性を否定したことなどを指摘して,その判断は経験則に照らして不合理であるとしており(判文参照),第1審判決の事実認定が経験則に照らして不合理であることを具体的に示したものといえ,刑訴法382条の解釈適用の誤りはない。 (補足意見がある。)
覚せい剤の密輸入事件について,共犯者供述の信用性を否定して無罪とした第1審判決には事実誤認があるとした原判決に,刑訴法382条の解釈適用の誤りはないとされた事例
刑訴法382条,刑訴法397条1項
判旨
控訴審が第1審の無罪判決を事実誤認として破棄する場合、第1審の事実認定が論理則や経験則等に照らして不合理であることを具体的に示す必要がある。客観的証拠である通話記録の性質を看過し、供述との細部における整合性を必要以上に要求して信用性を否定した第1審の判断は、経験則に照らし不合理である。
問題の所在(論点)
刑訴法382条の事実誤認の意義、及び第1審の無罪判決を事実誤認として破棄するに際して控訴審が示すべき不合理性の具体的内容。
規範
刑訴法382条の事実誤認とは、第1審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることをいう。控訴審が第1審判決に事実誤認があると言うためには、第1審判決の認定が不合理であることを具体的に指摘しなければならない。特に、証拠の証拠価値を評価するにあたって、客観的証拠の性質に対する配慮を欠いたり、供述の信用性判断において細部の整合性に固執して全体的な整合性を軽視したりすることは、経験則に照らして不合理な判断となり得る。
事件番号: 平成23(あ)757 / 裁判年月日: 平成24年2月13日 / 結論: 破棄自判
1 刑訴法382条の事実誤認とは,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることをいう。 2 控訴審が第1審判決に事実誤認があるというためには,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることを具体的に示す必要がある。 3 覚せい剤を密輸入した事件について覚せい剤を輸入する認識がなかっ…
重要事実
被告人は、共犯者Aらと共謀し、営利目的でトルコから覚せい剤約4kgを密輸入したとして起訴された。第1審は、主犯格とされるAの供述について、客観的な「通話記録」と細部で整合しない点があることや、被告人以外の第三者が指示を出していた可能性が否定できないことを理由に、A供述の信用性を否定し無罪とした。これに対し原審(控訴審)は、通話記録の性質(発信のみ記録され受信が残らない等)を考慮すればA供述と概ね合致しており、第1審の判断は不合理であるとして、無罪判決を破棄し差し戻した。
あてはめ
第1審は、A供述と通話記録の整合性を検討する際、受信記録が残らないという通話記録の性質に十分配慮せず、細部について必要以上の整合性を要求した。しかし、通話記録を全体として見れば密輸の計画・実行段階で頻繁な連絡が行われており、A供述を強く裏付けている。また、第三者の介在可能性についても、A供述が客観証拠で裏付けられている以上、抽象的な可能性に過ぎない。したがって、客観的証拠の証拠価値を見誤り、抽象的可能性のみで供述の信用性を否定した第1審の判断は、経験則に照らして明らかに不合理であるといえる。
結論
第1審判決の事実認定が経験則に照らして不合理であるとした原審の判断は正当であり、刑訴法382条の解釈適用の誤りはない。上告棄却。
実務上の射程
裁判員裁判における事実認定のあり方を画した重要判例である。答案上では、控訴審の審査対象が「第1審判決の不合理性」にあることを明記した上で、あてはめにおいて「客観的証拠(通話記録等)の評価」や「供述の核心部分と細部の峻別」といった視点から、第1審の論理の飛躍や経験則違反を指摘する際のモデルとして活用すべきである。
事件番号: 平成24(あ)167 / 裁判年月日: 平成25年4月16日 / 結論: 棄却
覚せい剤を密輸入した事件について,被告人の故意を認めながら共謀を認めずに無罪とした第1審判決には事実誤認があるとした原判決は,被告人が,犯罪組織関係者から日本に入国して輸入貨物を受け取ることを依頼され,その中に覚せい剤が隠匿されている可能性を認識しながらこれを引き受けたという本件事実関係の下では,特段の事情がない限り,…
事件番号: 平成24(あ)724 / 裁判年月日: 平成25年10月21日 / 結論: 棄却
密輸組織が関与する覚せい剤の密輸入事件について,被告人の覚せい剤に関する認識を否定して無罪とした第1審判決に事実誤認があるとした原判決は,この種事案に適用されるべき経験則等を示しつつ,被告人は覚せい剤が隠匿されたスーツケースを日本に運ぶよう指示又は依頼を受けて来日したと認定するなどした上,被告人の覚せい剤に関する認識を…
事件番号: 昭和52(あ)836 / 裁判年月日: 昭和54年3月27日 / 結論: 棄却
一 営利の目的で、麻薬であるジアセチルモルヒネの塩類粉末を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、麻薬取締法六四条二項、一項、一二条一項の麻薬輸入罪が成立する。 二 税関長の許可を受けないで、麻薬を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、関税法一一一条一項の無許可輸入罪が成立する。
事件番号: 昭和53(あ)157 / 裁判年月日: 昭和54年5月10日 / 結論: 棄却
許可を受けないで覚せい剤を輸入した者に対し関税法一一一条の罪の成立を認めても、憲法三八条一項にいう「自己に不利益な供述」を強要したことにはならない。