許可を受けないで覚せい剤を輸入した者に対し関税法一一一条の罪の成立を認めても、憲法三八条一項にいう「自己に不利益な供述」を強要したことにはならない。
許可を受けないで覚せい剤を輸入した者に対し関税法一一一条の罪の成立を認めることと憲法三八条一項
憲法38条1項,関税法67条,関税法111条
判旨
覚せい剤のように輸入が絶対的に禁止されている物品であっても、輸入申告義務は適正な関税徴収等を目的とする合理的制度であり、その不履行を関税法上の無許可輸入罪として処罰することは、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に違反しない。
問題の所在(論点)
覚せい剤のように別途法律で輸入が禁止されている物品について、関税法上の輸入申告義務を課し、これに違反した行為を無許可輸入罪(関税法111条)として処罰することが、自己に不利益な供述を強要されない権利(憲法38条1項)を侵害しないか。
規範
行政上の申告義務を課し、その不履行を刑罰で制裁することが憲法38条1項に違反するか否かは、(1)申告手続が刑事責任の追及を直接の目的とするものではなく、関税の公平な賦課徴収や税関事務の適正処理といった行政上の目的を達成するために必要かつ合理的な制度といえるか、(2)申告対象がすべての輸入者に一般的に義務付けられたものであるかという点から判断すべきである。
重要事実
被告人は、本邦に入国する際、覚せい剤取締法により輸入が禁止されている覚せい剤を携帯していた。被告人は、関税法67条が定める輸入申告・許可の手続を経ることなく、これを通関・輸入しようとした。これに対し、関税法111条の無許可輸入罪の成否が争われた。弁護人は、覚せい剤の輸入について申告を強制し、不申告を処罰することは、自己に不利益な供述を強要するものであり違憲であると主張した。
事件番号: 昭和53(あ)11 / 裁判年月日: 昭和54年5月29日 / 結論: 棄却
一 覚せい剤について不正の行為により関税を免れた者に対し関税法一一〇条の罪の成立を認めても、憲法三八条一項にいう「自己に不利益な供述」を強要したことにはならない。 二 覚せい剤について不正の行為により関税を免れた者は、関税法一一〇条一項一号に掲げる者に該当する。
あてはめ
まず、関税法上の輸入申告は、関税の適正な賦課徴収等を目的とするものであり、刑事責任の追及を目的とするものでも、その資料収集に直接結びつくものでもない(行政目的の合理性)。次に、この義務は本邦に入国する全者に対し、貨物の品目を問わず一般的に課されている(一般的義務)。覚せい剤輸入を断念すれば不申告による処罰は免れ得るが、それは元々禁止されている行為の断念に過ぎず、特段の保護に値する利益を奪うものではない。したがって、実質的に不利益な供述を強要するものとはいえない。
結論
覚せい剤の携帯輸入につき関税法上の無許可輸入罪の成立を認めても、憲法38条1項には違反しない。
実務上の射程
行政上の申告義務と自己負罪拒否特権の限界を示す重要判例である。行政目的の合理性と対象の一般性が認められる限り、結果的に犯罪事実を露呈させる性質の申告であっても合憲とされる傾向にある。答案上は、川崎民商事件判決等の規範とあわせて、目的の正当性と手段の必要性・合理性を具体的に検討する際の枠組みとして用いる。
事件番号: 昭和54(あ)2089 / 裁判年月日: 昭和55年6月11日 / 結論: 棄却
密輸入にかかる本件覚せい剤(判文参照)を没収するについては、刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法二条二項に定める公告の方法は、検察庁の掲示場における掲示で足りる。
事件番号: 昭和57(あ)568 / 裁判年月日: 昭和57年7月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白について、原判決が認定に用いた他の証拠によって十分な補強がなされている場合には、憲法38条3項(自白のみによる処罰の禁止)に違反しない。 第1 事案の概要:被告人の自白が存在し、それに基づき有罪判決が下された事案において、弁護人が「自白は補強されていない」として、憲法38条3項違反(補…
事件番号: 平成27(あ)416 / 裁判年月日: 平成28年12月9日 / 結論: 棄却
税関職員が,郵便物の輸出入の簡易手続として,輸入禁制品の有無等を確認するため,郵便物を開披し,その内容物を目視するなどした上,内容物を特定するため,必要最小限度の見本を採取して,これを鑑定に付すなどした本件郵便物検査(判文参照)を,裁判官の発する令状を得ずに,郵便物の発送人又は名宛人の承諾を得ることなく行うことが,関税…
事件番号: 昭和57(あ)1153 / 裁判年月日: 昭和58年9月29日 / 結論: 棄却
一 保税地域、税関空港等外国貨物に対する税関の実力的管理支配が及んでいる地域に、外国から船舶又は航空機により覚せい剤を持ち込む場合、覚せい罪取締法一三条、四一条の輸入罪は、覚せい剤を船舶から保税地域に陸揚げし、あるいは税関空港に着陸した航空機から覚せい剤を取りおろすことによつて既遂に達する。 二 保税地域、税関空港等外…