一 保税地域、税関空港等外国貨物に対する税関の実力的管理支配が及んでいる地域に、外国から船舶又は航空機により覚せい剤を持ち込む場合、覚せい罪取締法一三条、四一条の輸入罪は、覚せい剤を船舶から保税地域に陸揚げし、あるいは税関空港に着陸した航空機から覚せい剤を取りおろすことによつて既遂に達する。 二 保税地域、税関空港等外国貨物に対する税関の実力的管理支配が及んでいる地域に、外国から船舶又は航空機により覚せい剤を持ち込み、これを携帯していわゆる通関線を突破し又は突破しようとした場合に成立する覚せい剤取締法一三条、四一条の輸入罪と関税法一一一条の無許可輸入罪とは、刑法五四条一項前段の観念的競合の関係にある。
一 覚せい剤取締法一三条、四一条の輸入罪の既遂時期 二 覚せい剤取締法一三条、四一条の輸入罪と関税法一一一条の無許可輸入罪との罪数関係
刑法45条,刑法54条1項,覚せい剤取締法13条,覚せい剤取締法41条,関税法111条
判旨
覚せい剤取締法違反の輸入罪と関税法違反の無許可輸入罪は、既遂時期が異なるものの、外国から覚せい剤を持ち込み通関線を突破しようとする一連の動態は自然的観察により一個の行為と評価されるため、観念的競合(刑法54条1項前段)の関係に立つ。
問題の所在(論点)
覚せい剤を携帯して航空機等から陸揚げし、そのまま通関線を突破しようとした一連の行為について、既遂時期の異なる覚せい剤取締法上の輸入罪と関税法上の無許可輸入罪(または未遂罪)が、いかなる罪数関係に立つかが問題となる。
規範
刑法54条1項前段にいう「一個の行為」とは、法的評価を離れ、構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとにおいて、行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合をいう。複数の罪の既遂時期が異なる場合であっても、一連の動態が社会的見解上一個の行為と評価され、それが数個の罪名に同時に該当するときは、観念的競合となる。
重要事実
事件番号: 昭和51(あ)661 / 裁判年月日: 昭和51年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】覚せい剤を隠匿携帯して本邦に搬入し、税関を通過する際に発見された場合、覚せい剤取締法違反(輸入)と関税法違反(無許可輸入)は、自然的・社会的見解上一個の行為と評価でき、観念的競合(刑法54条1項前段)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、覚せい剤取締法上輸入が禁止され、かつ関税定率法上の有税…
被告人らは、覚せい剤を隠匿携帯して航空機で空港に到着した。覚せい剤輸入罪は航空機からの取り降ろし(陸揚げ)時に既遂となるが、被告人らはその後、さらに旅具検査場を通過して通関線を突破しようとしたところで発見され、関税法上の無許可輸入未遂罪に問われた。
あてはめ
覚せい剤輸入罪は保健衛生上の危害防止を目的とし、陸揚げ時に既遂となる。一方、無許可輸入罪は通関時を既遂とするため既遂時期は異なる。しかし、外国から持ち込んだ覚せい剤を携帯して通関線を突破しようとする一連の動態は、自然的・社会的見解によれば一個の輸入行為と評価できる。この「一個の行為」が両罪の構成要件に同時に該当するため、観念的競合と解するのが相当である。
結論
覚せい剤輸入罪と関税法上の無許可輸入罪(未遂を含む)は、刑法54条1項前段の観念的競合の関係にある。
実務上の射程
自然的観察による「一個の行為」の判断枠組みを維持し、実質的な行為の単一性を重視する。試験上は、異なる法益や既遂時期を持つ複数の輸出入関連犯罪が重なる場面で、併合罪ではなく観念的競合として処理する際の根拠となる。
事件番号: 昭和49(あ)1431 / 裁判年月日: 昭和49年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法54条1項前段の「一個の行為」とは、自然的観察のもとで行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合をいい、麻薬を身体に携帯して本邦に搬入する行為は、麻薬取締法違反と関税法違反の観念的競合となる。 第1 事案の概要:被告人は、関税定率法上の輸入禁制品であり、かつ麻薬取締法上も輸入が禁止さ…
事件番号: 昭和52(あ)1278 / 裁判年月日: 昭和52年12月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法54条1項前段の「一個の行為」とは、自然的観察のもとで行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合を指し、覚せい剤の輸入行為が同時に関税法違反となる場合は観念的競合にあたる。 第1 事案の概要:被告人は、覚せい剤取締法上で輸入が禁止されている覚せい剤(塩酸フエニルメチルアミノプロパン結…
事件番号: 昭和52(あ)836 / 裁判年月日: 昭和54年3月27日 / 結論: 棄却
一 営利の目的で、麻薬であるジアセチルモルヒネの塩類粉末を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、麻薬取締法六四条二項、一項、一二条一項の麻薬輸入罪が成立する。 二 税関長の許可を受けないで、麻薬を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、関税法一一一条一項の無許可輸入罪が成立する。