覚せい剤取締法四一条一項一号、二項の罪と関税法一一〇条三項、一項一号前段の罪との罪数関係について意見が付された事例
覚せい剤法13条,覚せい剤法41条1項1号,覚せい剤法41条2項,関税法110条1項1号前,関税法110条3項,刑法45条,刑法54条1項前
判旨
覚せい剤を隠匿携帯して本邦に搬入し、税関を通過する際に発見された場合、覚せい剤取締法違反(輸入)と関税法違反(無許可輸入)は、自然的・社会的見解上一個の行為と評価でき、観念的競合(刑法54条1項前段)の関係に立つ。
問題の所在(論点)
同一の日時・場所において行われた覚せい剤の輸入行為が、覚せい剤取締法違反と関税法違反の二罪を構成する場合、その罪数関係はいかに解すべきか。一個の行為といえるか(刑法54条1項前段の適用の可否)が問題となる。
規範
「一個の行為が二個以上の罪名に触れるとき」(刑法54条1項前段)とは、自然的観察のもとにおける社会的見解上、その全動態が明らかに事象を同じくする一個の行為として評価できる場合を指す。
重要事実
被告人は、覚せい剤取締法上輸入が禁止され、かつ関税定率法上の有税品である覚せい剤を、隠匿携帯して空路で日本へ搬入した。その後、税関を通過する際に当該覚せい剤を発見された。原判決は、この覚せい剤取締法違反(輸入)と関税法違反(無許可輸入)の罪数を、併合罪として処理していた。
あてはめ
被告人の行為は、覚せい剤を携帯して搬入し税関を通過するという一連の動態である。これは自然的観察および社会的見解に照らせば、明らかに事象を同じくする一個の覚せい剤輸入行為として評価できる。したがって、当該行為が覚せい剤取締法41条1項・2項等および関税法110条1項・3項等の各罪に同時に該当する場合、これらは観念的競合として扱うのが相当である。原判決が併合罪とした点には法令の解釈適用の誤りがある。
事件番号: 昭和57(あ)1153 / 裁判年月日: 昭和58年9月29日 / 結論: 棄却
一 保税地域、税関空港等外国貨物に対する税関の実力的管理支配が及んでいる地域に、外国から船舶又は航空機により覚せい剤を持ち込む場合、覚せい罪取締法一三条、四一条の輸入罪は、覚せい剤を船舶から保税地域に陸揚げし、あるいは税関空港に着陸した航空機から覚せい剤を取りおろすことによつて既遂に達する。 二 保税地域、税関空港等外…
結論
覚せい剤取締法違反と関税法違反は観念的競合の関係にある。本件では法令の解釈適用の誤りがあるものの、宣告刑は相当であり、判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
実務上、薬物の輸入事案において関税法違反と薬物取締法違反が重なる際、これらを併合罪とせず観念的競合として1つの刑罰の範囲内で処断することを確立した射程を持つ。答案上は、数個の法的評価が重なる場合でも、行為の態様が時間的・空間的に密接し、自然的・社会的見解から一個と評価できる場合には観念的競合を認めるべきとする根拠として用いる。
事件番号: 昭和49(あ)1431 / 裁判年月日: 昭和49年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法54条1項前段の「一個の行為」とは、自然的観察のもとで行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合をいい、麻薬を身体に携帯して本邦に搬入する行為は、麻薬取締法違反と関税法違反の観念的競合となる。 第1 事案の概要:被告人は、関税定率法上の輸入禁制品であり、かつ麻薬取締法上も輸入が禁止さ…
事件番号: 昭和52(あ)1278 / 裁判年月日: 昭和52年12月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法54条1項前段の「一個の行為」とは、自然的観察のもとで行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合を指し、覚せい剤の輸入行為が同時に関税法違反となる場合は観念的競合にあたる。 第1 事案の概要:被告人は、覚せい剤取締法上で輸入が禁止されている覚せい剤(塩酸フエニルメチルアミノプロパン結…
事件番号: 昭和52(あ)836 / 裁判年月日: 昭和54年3月27日 / 結論: 棄却
一 営利の目的で、麻薬であるジアセチルモルヒネの塩類粉末を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、麻薬取締法六四条二項、一項、一二条一項の麻薬輸入罪が成立する。 二 税関長の許可を受けないで、麻薬を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、関税法一一一条一項の無許可輸入罪が成立する。
事件番号: 昭和55(あ)515 / 裁判年月日: 昭和57年2月17日 / 結論: 棄却
一 幇助罪の個数は、正犯の罪のそれに従つて決定される。 二 幇助罪が数個成立する場合において、それらが刑法五四条一項にいう一個の行為によるものであるか否かは、幇助行為それ自体についてみるべきである。