関税法一〇九条一項違反の罪と麻薬取締法一二条一項違反の罪との罪数関係について意見が付された事例
関税法109条1項,関税法定率法21条1項,麻薬法12条1項,麻薬法64条1項
判旨
刑法54条1項前段の「一個の行為」とは、自然的観察のもとで行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合をいい、麻薬を身体に携帯して本邦に搬入する行為は、麻薬取締法違反と関税法違反の観念的競合となる。
問題の所在(論点)
同一の日時・場所において、同一の麻薬を輸入した行為について、麻薬取締法違反と関税法違反が成立する場合、これらは刑法45条前段の併合罪となるか、それとも刑法54条1項前段の観念的競合(一個の行為)となるか、その罪数関係が問題となる。
規範
刑法54条1項前段にいう「一個の行為」とは、法的評価を離れ、構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価を受ける場合を指す。外観上は数個の意思動態による行為に見える場合であっても、行為相互間に極めて密接した統一的関連性が認められ、具体的状況に照らして社会的見解上全動態を一個の事象と評価するのが相当であれば、行為の一個性が認められる。
重要事実
被告人は、関税定率法上の輸入禁制品であり、かつ麻薬取締法上も輸入が禁止されている麻薬(塩酸ジアセチルモルヒネ含有)を、身体に携帯したまま空路で本邦に搬入し、税関を通過した。この一連の行為について、麻薬取締法違反(輸入)の罪と関税法違反(無許可輸入)の罪が成立するとして起訴された。
あてはめ
本件における被告人の全動態は、自然的観察に基づけば「麻薬を本邦内に搬入した」という一個の事象として評価できる。この一連の動きは、麻薬取締法上の輸入行為であると同時に、関税法上の輸入行為(禁制品搬入)でもある。したがって、両罪の構成要件に該当する行為は、時間的・場所的に極めて密接した統一的関連性を有しており、社会的見解上、一個の行為として評価されるべきである。
事件番号: 昭和51(あ)661 / 裁判年月日: 昭和51年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】覚せい剤を隠匿携帯して本邦に搬入し、税関を通過する際に発見された場合、覚せい剤取締法違反(輸入)と関税法違反(無許可輸入)は、自然的・社会的見解上一個の行為と評価でき、観念的競合(刑法54条1項前段)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、覚せい剤取締法上輸入が禁止され、かつ関税定率法上の有税…
結論
被告人の行為は、麻薬取締法違反と関税法違反の観念的競合(刑法54条1項前段)の関係に立つ。ただし、原判決が併合罪とした点に誤りがあるとしても、宣告刑が相当であれば、結論として上告は棄却される。
実務上の射程
罪数決定における「一個の行為」の判断基準(自然的観察・社会的見解)を示す。特に、薬物の密輸入事案において、行政取締法規(関税法)と禁圧法規(麻薬取締法等)の双方が適用される場面では、原則として観念的競合として処理すべきことを示唆している。
事件番号: 昭和57(あ)1153 / 裁判年月日: 昭和58年9月29日 / 結論: 棄却
一 保税地域、税関空港等外国貨物に対する税関の実力的管理支配が及んでいる地域に、外国から船舶又は航空機により覚せい剤を持ち込む場合、覚せい罪取締法一三条、四一条の輸入罪は、覚せい剤を船舶から保税地域に陸揚げし、あるいは税関空港に着陸した航空機から覚せい剤を取りおろすことによつて既遂に達する。 二 保税地域、税関空港等外…
事件番号: 昭和52(あ)1278 / 裁判年月日: 昭和52年12月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法54条1項前段の「一個の行為」とは、自然的観察のもとで行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合を指し、覚せい剤の輸入行為が同時に関税法違反となる場合は観念的競合にあたる。 第1 事案の概要:被告人は、覚せい剤取締法上で輸入が禁止されている覚せい剤(塩酸フエニルメチルアミノプロパン結…
事件番号: 昭和58(あ)1235 / 裁判年月日: 昭和58年12月21日 / 結論: 棄却
一 税関空港、保税地域等外国貨物に対する税関の実力的管理支配が及んでいる地域に外国から航空機又は船舶により大麻を持ち込む場合、大麻取締法四条、二四条一項の輸入罪は、大麻を税関空港に着陸した航空機から取りおろし、あるいは船舶から保税地域に陸揚げすることによつて成立する。 二 税関空港、保税地域等外国貨物に対する税関の実力…
事件番号: 昭和52(あ)836 / 裁判年月日: 昭和54年3月27日 / 結論: 棄却
一 営利の目的で、麻薬であるジアセチルモルヒネの塩類粉末を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、麻薬取締法六四条二項、一項、一二条一項の麻薬輸入罪が成立する。 二 税関長の許可を受けないで、麻薬を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、関税法一一一条一項の無許可輸入罪が成立する。