一 税関空港、保税地域等外国貨物に対する税関の実力的管理支配が及んでいる地域に外国から航空機又は船舶により大麻を持ち込む場合、大麻取締法四条、二四条一項の輸入罪は、大麻を税関空港に着陸した航空機から取りおろし、あるいは船舶から保税地域に陸揚げすることによつて成立する。 二 税関空港、保税地域等外国貨物に対する税関の実力的管理支配が及んでいる地域に外国から航空機又は船舶により大麻を持ち込み、これを携帯して通関線を突破し又は突破しようとした場合に成立する大麻取締法四条、二四条二号の輸入罪と関税法一一一条の無許可輸入罪とは、刑法五四条一項前段の観念的競合の関係にある。
一 大麻取締法四条、二四条二号の輸入罪の成立時期 二 大麻取締法四条、二四条二号の輸入罪と関税法一一一条の無許可輸入罪との罪数関係
大麻取締法4条,大麻取締法24条2号,刑法45条,刑法54条1項,関税法111条
判旨
大麻取締法の輸入罪は、大麻を航空機から取り降ろし、又は船舶から陸揚げした時点で既遂に達する。また、同一の大麻持込み行為が同罪の既遂と関税法上の無許可輸入未遂罪の双方に該当する場合、両罪は観念的競合の関係に立つ。
問題の所在(論点)
1. 大麻取締法における「輸入」の既遂時期は、通関線の突破時か、あるいは航空機等からの荷降ろし時か。 2. 大麻輸入罪(既遂)と関税法違反(未遂)が成立する場合、両罪の罪数関係はどうなるか。
規範
1. 大麻取締法の輸入罪の既遂時期:大麻を航空機から取り降ろし、あるいは船舶から保税地域に陸揚げした時点とする。その趣旨は、同法が保健衛生上の危害防止を目的とする点にあり、当該時点において危害発生の危険性が既に生じているからである。 2. 罪数関係:外国から大麻を持ち込み、携帯して通関線を突破しようとする一連の動態は、自然的・社会的観察において一個の行為と評価される。したがって、大麻輸入罪と関税法上の無許可輸入未遂罪は、刑法54条1項前段の観念的競合となる。
事件番号: 平成9(あ)1207 / 裁判年月日: 平成11年9月28日 / 結論: 棄却
大麻の密輸入を企てた被告人が、大麻を預託手荷物と携帯手荷物の中にそれぞれ隠匿して、航空機で新東京国際空港に到着した後、入国審査官により本邦からの退去を命じられ、即日本邦を出発する航空機に搭乗することとしたが、それまでに、預託手荷物は空港作業員により旅具検査場内に搬入させ、携帯手荷物は自ら携帯して上陸審査場に赴いて上陸審…
重要事実
被告人は、大麻を携帯して空路で新東京国際空港に到着し、当該大麻を航空機から取り降ろした。その後、税関の通関線を突破しようとしたが果たせなかったため、関税法上の無許可輸入罪については未遂にとどまった。原審は、大麻輸入罪と関税法違反(未遂)を併合罪として処断した。
あてはめ
1. 既遂時期について:大麻取締法は、濫用による保健衛生上の危害防止を目的とする。航空機からの取り降ろしにより、国内への流入の危険は現実化しており、通関線の突破は同法の趣旨から重要ではない。本件被告人は航空機から大麻を取り降ろしており、同罪は既遂に達するといえる。 2. 罪数について:本件の行為は、外国から大麻を持ち込み通関線を突破しようとする一連の身体的動作である。これは法的評価を離れた自然的観察によれば一個の行為と評価すべきであり、両罪に同時に該当すると解される。したがって、併合罪とした原審の判断は誤りである。
結論
被告人には大麻輸入罪の既遂が成立する。また、同罪と関税法違反(未遂)は観念的競合となる(ただし、原判決の併合罪とする誤りは、結論において正義に反しないため上告棄却)。
実務上の射程
特別法における「輸入」の概念が、法の目的(保健衛生vs関税徴収・通関秩序)によって異なることを示した射程の長い判例。答案上は、関税法と他法令(大麻、覚醒剤、刀剣類等)が競合する場面で、既遂時期のズレと観念的競合の処理を論じる際の標準的な枠組みとして用いる。
事件番号: 昭和49(あ)1431 / 裁判年月日: 昭和49年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法54条1項前段の「一個の行為」とは、自然的観察のもとで行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合をいい、麻薬を身体に携帯して本邦に搬入する行為は、麻薬取締法違反と関税法違反の観念的競合となる。 第1 事案の概要:被告人は、関税定率法上の輸入禁制品であり、かつ麻薬取締法上も輸入が禁止さ…
事件番号: 昭和57(あ)1153 / 裁判年月日: 昭和58年9月29日 / 結論: 棄却
一 保税地域、税関空港等外国貨物に対する税関の実力的管理支配が及んでいる地域に、外国から船舶又は航空機により覚せい剤を持ち込む場合、覚せい罪取締法一三条、四一条の輸入罪は、覚せい剤を船舶から保税地域に陸揚げし、あるいは税関空港に着陸した航空機から覚せい剤を取りおろすことによつて既遂に達する。 二 保税地域、税関空港等外…
事件番号: 平成8(あ)814 / 裁判年月日: 平成9年10月30日 / 結論: 棄却
本邦に到着した航空貨物内から税関検査による輸入禁制品である大麻が発見されて国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律四条に基づきいわゆるコントロールド・デリバリーが実施された場合、配送業者が捜査機関から大麻の存在を知らされその監視下において貨物…
事件番号: 昭和57(あ)631 / 裁判年月日: 昭和58年2月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】大麻取締法が定める法定刑は、違反行為の罪質に対して著しく均衡を欠くものとは認められず、憲法31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は大麻取締法24条2号(輸出入等)および同法24条の2第1号(所持等)の罪に問われた。これに対し、弁護人は同法が定める刑罰が重すぎて違反行為の罪質と均衡を欠いてお…