大麻の密輸入を企てた被告人が、大麻を預託手荷物と携帯手荷物の中にそれぞれ隠匿して、航空機で新東京国際空港に到着した後、入国審査官により本邦からの退去を命じられ、即日本邦を出発する航空機に搭乗することとしたが、それまでに、預託手荷物は空港作業員により旅具検査場内に搬入させ、携帯手荷物は自ら携帯して上陸審査場に赴いて上陸審査を受けるまでに至っていたなど判示の事実関係の下においては、大麻全部につき関税法一〇九条の禁制品輸入罪の実行の着手が既にあったものと認められる。
関税法一〇九条の禁制品輸入罪につき実行の着手があったとされた事例
関税法109条
判旨
関税法109条の禁制品輸入罪の実行の着手は、輸入禁制品を携帯して上陸審査を受けるために上陸審査場に赴いた時点、あるいは機内預託手荷物が旅具検査場内に搬入された時点で認められる。
問題の所在(論点)
禁制品の輸入を企てた者が、入国審査で拒絶され退去を命じられたことにより輸入の意思を放棄した場合、それ以前の行為をもって関税法109条(禁制品輸入罪)の実行の着手が認められるか。
規範
関税法上の禁制品輸入罪の実行の着手時期については、輸入の意思をもって、禁制品を本邦の領土・領海・領空内に引き入れ、あるいは通関線を突破しようとする密接な行為を開始した時点をもって判断すべきである。
重要事実
被告人は大麻を隠匿した黒色スーツケース(機内預託)と紺色スーツケース(自ら携帯)を携え、シンガポールから新東京国際空港に到着した。黒色スーツケースは作業員により旅具検査場に搬入され、被告人自身は紺色スーツケースを携帯して上陸審査場に赴き、上陸審査を受けた。しかし入国を拒否され退去命令を受けたため、輸入の意思を放棄し帰国しようとした際、税関職員の検査により大麻が発見された。
事件番号: 昭和58(あ)1235 / 裁判年月日: 昭和58年12月21日 / 結論: 棄却
一 税関空港、保税地域等外国貨物に対する税関の実力的管理支配が及んでいる地域に外国から航空機又は船舶により大麻を持ち込む場合、大麻取締法四条、二四条一項の輸入罪は、大麻を税関空港に着陸した航空機から取りおろし、あるいは船舶から保税地域に陸揚げすることによつて成立する。 二 税関空港、保税地域等外国貨物に対する税関の実力…
あてはめ
本件では、被告人が入国審査で退去を命じられた時点で「通関線を突破して本邦に輸入しようとする意思」は放棄されたといえる。しかし、その前段階において、黒色スーツケースは既に旅具検査場内に搬入され、紺色スーツケースについては被告人自ら携帯して上陸審査を受けるまでに至っている。これらの行為は、禁制品を国内へ持ち込むための密接な行為といえ、輸入の法益侵害に至る客観的な危険性が認められる。
結論
被告人が退去命令により輸入を断念する以前に、本件大麻全部について禁制品輸入罪の実行の着手があったと認められ、同罪の未遂罪が成立する。
実務上の射程
密輸事件における実行の着手時期を「旅具検査場への搬入」や「上陸審査場への現出」という早い段階で肯定した。輸入の意思放棄(中止犯の問題等)が生じる前であっても、客観的な場所的移動によって着手が認められる点に実務上の意義がある。
事件番号: 平成8(あ)814 / 裁判年月日: 平成9年10月30日 / 結論: 棄却
本邦に到着した航空貨物内から税関検査による輸入禁制品である大麻が発見されて国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律四条に基づきいわゆるコントロールド・デリバリーが実施された場合、配送業者が捜査機関から大麻の存在を知らされその監視下において貨物…
事件番号: 平成19(あ)2081 / 裁判年月日: 平成20年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】覚せい剤を海上に投下し、これを小型船舶で回収して陸揚げする計画において、投下した覚せい剤を回収できず、その実力的支配下に置く可能性も乏しい段階では、輸入罪の実行の着手は認められない。 第1 事案の概要:被告人らは共犯者と共謀し、外国で覚せい剤を密輸船に積み込み、日本近海まで航行させ、海上に投下した…
事件番号: 平成19(あ)1985 / 裁判年月日: 平成20年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】洋上で覚せい剤を密輸船から投下し、小型船舶で回収して陸揚げしようとした事案において、回収担当者が覚せい剤を実力的支配下に置かず、その可能性も乏しい段階では、輸入罪の実行の着手は認められない。 第1 事案の概要:被告人は共犯者と共謀し、外国で覚せい剤を密輸船に積み込み、本邦近海まで航行させた。その後…