本邦に到着した航空貨物内から税関検査による輸入禁制品である大麻が発見されて国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律四条に基づきいわゆるコントロールド・デリバリーが実施された場合、配送業者が捜査機関から大麻の存在を知らされその監視下において貨物を保税地域から本邦に引き取ったときであっても、右貨物を発送した者らにつき関税法上の禁制品輸入罪の既遂が成立する。
国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律四条に基づくいわゆるコントロールド・デリバリーの実施と関税法上の禁制品輸入罪の既遂の成否
国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律4条,関税法109条1項
判旨
関税法上の輸入罪において、捜査機関の監視下で行われるコントロールド・デリバリー(CD)が実施された場合であっても、配送業者が運送契約上の義務の履行として貨物を引き取ったと評価できる限り、犯人の道具として利用されたといえ、輸入罪は既遂に達する。
問題の所在(論点)
捜査機関が介入し、配送業者が監視下で貨物を引き渡すコントロールド・デリバリーが実施された場合において、関税法109条1項の禁制品輸入罪が既遂に達するか。特に、配送業者の「道具性」が失われないかが問題となる。
規範
関税法上の「輸入」とは、外国から本邦に到着した貨物を本邦に(保税地域を経由するものは保税地域を経て)引き取ることをいう。間接正犯において、情を知らない第三者を介して輸入を行う場合、当該第三者が委託者の意図に沿って引取り・配達を行うのであれば、たとえその過程で捜査機関に協力し監視下に置かれたとしても、当該第三者は依然として委託者の犯罪実現のための「道具」としての性格を維持し、輸入罪は既遂に達する。
重要事実
事件番号: 平成9(あ)1207 / 裁判年月日: 平成11年9月28日 / 結論: 棄却
大麻の密輸入を企てた被告人が、大麻を預託手荷物と携帯手荷物の中にそれぞれ隠匿して、航空機で新東京国際空港に到着した後、入国審査官により本邦からの退去を命じられ、即日本邦を出発する航空機に搭乗することとしたが、それまでに、預託手荷物は空港作業員により旅具検査場内に搬入させ、携帯手荷物は自ら携帯して上陸審査場に赴いて上陸審…
被告人は共謀の上、大麻を隠匿した航空貨物をフィリピンから自己が経営する居酒屋宛に発送した。成田税関での検査により大麻が発見されたが、捜査当局はコントロールド・デリバリー(CD)を実施。情を知らない配送業者は、税関長の輸入許可後、捜査当局から事情を説明され協力を要請された上で、監視下で貨物を保税地域から引き取り、被告人に配達した。被告人は貨物を受領した直後に逮捕された。
あてはめ
被告人らは、配送業者が通常の業務として貨物を引き取り配達することを予期し、運送契約上の義務を履行する業者を自己の犯罪実現の道具として利用しようとした。配送業者が捜査当局から事情を知らされ監視下に入ったとしても、その引取り及び配達行為は、依然として被告人らの依頼に基づく運送契約上の義務履行としての性格を失わない。したがって、配送業者は被告人らの依頼の趣旨に沿う形で貨物を本邦に引き取ったといえ、被告人らはその意図したとおり第三者を道具として利用したものと解される。よって、貨物が保税地域から本邦へ引き取られた時点で輸入の要件を満たす。
結論
本件禁制品輸入罪は既遂に達する。よって、既遂を認めた原判決は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
クリーン・コントロールド・デリバリー(中身をすり替える場合)ではなく、本件のようなライブ・コントロールド・デリバリー(薬物をそのまま残す場合)において、輸入罪の既遂時期を判断する際の重要判例である。配送業者が「捜査協力者」としての側面を持ったとしても、形式的に契約履行の枠組みにある限り、間接正犯の道具性を肯定する理論構成として活用できる。
事件番号: 昭和58(あ)1235 / 裁判年月日: 昭和58年12月21日 / 結論: 棄却
一 税関空港、保税地域等外国貨物に対する税関の実力的管理支配が及んでいる地域に外国から航空機又は船舶により大麻を持ち込む場合、大麻取締法四条、二四条一項の輸入罪は、大麻を税関空港に着陸した航空機から取りおろし、あるいは船舶から保税地域に陸揚げすることによつて成立する。 二 税関空港、保税地域等外国貨物に対する税関の実力…
事件番号: 昭和56(あ)1588 / 裁判年月日: 昭和57年7月16日 / 結論: 棄却
大麻の密輸入を計画した甲からその実行担当者になつて欲しい旨頼まれた乙が、大麻を入手したい欲求にかられ、執行猶予中の身であることを理由にこれを断つたものの、知人の丙に対し事情を明かして協力を求め、同人を自己の身代りとして甲に引き合わせるとともに、密輸入した大麻の一部をもらい受ける約束のもとにその資金の一部を甲に提供したと…
事件番号: 昭和49(あ)1431 / 裁判年月日: 昭和49年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法54条1項前段の「一個の行為」とは、自然的観察のもとで行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合をいい、麻薬を身体に携帯して本邦に搬入する行為は、麻薬取締法違反と関税法違反の観念的競合となる。 第1 事案の概要:被告人は、関税定率法上の輸入禁制品であり、かつ麻薬取締法上も輸入が禁止さ…
事件番号: 昭和60(あ)445 / 裁判年月日: 昭和60年9月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】大麻の有害性は否定できず、大麻取締法による規制は憲法13条、14条、31条、36条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は大麻を所持したことにより大麻取締法違反で起訴された。これに対し弁護人は、大麻には有害性がない、あるいは極めて低いものであるから、その所持を処罰することは憲法13条(自己決定権…