大麻の密輸入を計画した甲からその実行担当者になつて欲しい旨頼まれた乙が、大麻を入手したい欲求にかられ、執行猶予中の身であることを理由にこれを断つたものの、知人の丙に対し事情を明かして協力を求め、同人を自己の身代りとして甲に引き合わせるとともに、密輸入した大麻の一部をもらい受ける約束のもとにその資金の一部を甲に提供したときは、乙は、これらの行為を通じ甲及び丙らと大麻密輸入の謀議を遂げたものと認めるべきである。
大麻密輸入の謀議を遂げたものとされた事例
大麻取締法4条1号,大麻取締法24条2号,関税法111条,刑法60条
判旨
実行行為に関与しない者であっても、自己の犯罪として本人が犯罪実現の主体となったといえる場合には、刑法60条の共同正犯が成立する。具体的には、共謀に加え、犯行への主観的関与(自己の利益等)や客観的寄与(重要な役割の遂行)を総合考慮して正犯性を判断する。
問題の所在(論点)
実行行為を分担していない共謀者が、刑法60条の「共同して犯罪を実行した者」として共同正犯の責めを負うか(共謀共同正犯の成否)。
規範
共同正犯(刑法60条)が成立するためには、必ずしも全員が実行行為を分担することを要しない。①2人以上の者が、②特定の犯罪を行うことを共謀し、③その共謀に基づき一部の者が実行行為に及んだ場合、実行行為に関与しない共謀者も、基本的構成要件該当事実を共同で実現した「正犯」として全責任を負う。その正犯性の有無は、犯罪実現に対する意思(自己の犯罪とする意思)や、共謀内での役割の重要性等に基づき、構成要件該当事実を支配したか否かにより判断される。
重要事実
大麻密輸入を計画したAは、被告人に実行を依頼した。被告人は執行猶予中を理由に拒絶したが、大麻入手欲求から、自身の身代わりとして知人BをAに紹介し、Bに密輸入を実行することを承知させた。また、被告人は密輸入大麻の一部を譲り受ける約束で、資金20万円をAに提供した。Bは被告人の勧誘により犯行に加担し、実際にタイ国から大麻を密輸入した。被告人は密輸入の実行行為自体には関与していなかった。
事件番号: 平成8(あ)814 / 裁判年月日: 平成9年10月30日 / 結論: 棄却
本邦に到着した航空貨物内から税関検査による輸入禁制品である大麻が発見されて国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律四条に基づきいわゆるコントロールド・デリバリーが実施された場合、配送業者が捜査機関から大麻の存在を知らされその監視下において貨物…
あてはめ
被告人は、Aから実行を頼まれた際、大麻への依存性や入手欲求から自ら進んで協力しており、密輸入大麻の分配を受ける約束もしていた。これは本件犯罪が「自己の利益のための犯罪」であったことを示す。また、被告人は、単に計画を承諾しただけでなく、自身の身代わりとして若年の知人BをAに引き合わせ、旅費が無料になる等の口実でBを説得して実行役に仕立て上げている。さらに資金20万円を提供して犯行を容易にした。これらの事実は、被告人が犯行計画においてBを自己の思うように動かし、犯罪実現の主体として重要な役割を果たしたことを意味する。したがって、被告人は本件構成要件該当事実について支配を有しており、単なる幇助にとどまらない正犯性が認められる。
結論
被告人はA、Bとの間で共謀を遂げたものと認められ、実行行為を担当していないとしても、大麻密輸入罪の共同正犯としての責任を免れない。
実務上の射程
共謀共同正犯の成立を認めたリーディングケースの一つ。答案では「正犯性(自己の犯罪として行う意思、および犯行における重要な役割)」の有無を論証する際、団藤意見が示した「構成要件該当事実の支配」という視点を盛り込むことで、単なる共謀の有無を超えた論理的なあてはめが可能になる。
事件番号: 昭和31(あ)3426 / 裁判年月日: 昭和34年5月8日 / 結論: 棄却
一 イ、関税逋脱事件につき税関長が懲役の刑に処するのを相当として、通告をすることなく告発したときは、判決が罰金刑であつたからといつて、右告発が遡つて不適法にはならない。 ロ、法人のために行為する者について、税関長が懲役の刑に処するのを相当として直接告発する場合においては、法人に対しても通告なしに告発することができる。 …
事件番号: 昭和58(あ)1235 / 裁判年月日: 昭和58年12月21日 / 結論: 棄却
一 税関空港、保税地域等外国貨物に対する税関の実力的管理支配が及んでいる地域に外国から航空機又は船舶により大麻を持ち込む場合、大麻取締法四条、二四条一項の輸入罪は、大麻を税関空港に着陸した航空機から取りおろし、あるいは船舶から保税地域に陸揚げすることによつて成立する。 二 税関空港、保税地域等外国貨物に対する税関の実力…
事件番号: 昭和60(あ)445 / 裁判年月日: 昭和60年9月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】大麻の有害性は否定できず、大麻取締法による規制は憲法13条、14条、31条、36条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は大麻を所持したことにより大麻取締法違反で起訴された。これに対し弁護人は、大麻には有害性がない、あるいは極めて低いものであるから、その所持を処罰することは憲法13条(自己決定権…