関税法第一一一条第一項に違反する無許可輸入と同法第一一〇条第一項に違反する関税逋脱とを一個の所為で行うときは、観念的競合と解すべきである。
関税法第一一一条第一項違反罪と同法第一一〇条第一項違反罪との関係。
関税法111条1項,関税法110条1項,関税法112条1項,関税法112条3項,刑法54条1項,日本国とアメリカ合衆国との間の安全保証条約3条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律11条1項,日本国とアメリカ合衆国との間の安全保証条約3条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律12条1項
判旨
関税法における無許可輸入罪と関税逋脱罪は、保護法益を異にするため互いに排斥し合う関係にはなく、一個の行為が双方に該当する場合は観念的競合(刑法54条1項前段)となる。
問題の所在(論点)
一個の輸入行為によって関税の逋脱と無許可輸入の双方が行われた場合、両罪は観念的競合の関係に立つか、それともいずれか一罪のみが成立するのか(法条競合か観念的競合か)。
規範
異なる構成要件の保護法益および罪の性質が区別される場合、それらは互いに相排斥するものではない。一個の所為が複数の罪名に触れるときは、刑法54条1項前段に基づき観念的競合として処理すべきである。
重要事実
被告人は関税を免れる目的で輸入許可を得ずに物品を輸入した。第一審および控訴審は、関税法110条1項(関税逋脱)と111条1項(無許可輸入)が成立し、両者は観念的競合の関係にあるとして、より重い関税逋脱罪の刑期等の範囲で処断した。これに対し弁護人は、旧法下では関税逋脱が成立する場合に無許可輸入罪は適用しない旨の規定があったこと等を根拠に、両罪は排斥関係にあり、本件には関税逋脱の規定が適用されるべきではないと主張して上告した。
事件番号: 昭和27(あ)3030 / 裁判年月日: 昭和28年3月24日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】関税法違反と貿易等臨時措置令違反が同一の行為により成立する場合、両罪は刑法54条1項前段の観念的競合の関係に立ち、最も重い刑により処断される。 第1 事案の概要:被告人は、輸入貨物である中双糖及び含密糖の密輸入に関連して、関税法違反および貿易等臨時措置令(後の外国為替及び外国貿易管理法)違反の罪に…
あてはめ
まず、旧関税法には無免許輸入と関税逋脱等が重なる場合に後者のみを適用する旨の明文(旧76条4項)が存在したが、現行法はその規定を削除しており、両罪の併存を否定する根拠はない。次に保護法益を検討すると、無許可輸入罪(111条)は輸入管理という秩序維持を目的とする形式犯的性質を持つのに対し、関税逋脱罪(110条)は関税収入という国庫利益を法益とする実質犯的性質を持つ。このように両罪は保護法益および性質を異にするため、一方が他方を包含して排斥する関係にはない。したがって、一個の行為でこれらを犯すときは観念的競合となる。
結論
無許可輸入罪と関税逋脱罪は観念的競合の関係に立つ。したがって、両方の罪名を適用した原判断は正当である。
実務上の射程
行政刑法における構成要件の重なりについて、旧法の削除という沿革的理由と、保護法益(形式的な秩序維持vs実質的な財政利益)の差異という実質的理由から観念的競合を認めた射程の広い判例である。答案上では、一個の行為が複数の法益を侵害していることを論証する際の雛形として活用できる。
事件番号: 昭和57(あ)1153 / 裁判年月日: 昭和58年9月29日 / 結論: 棄却
一 保税地域、税関空港等外国貨物に対する税関の実力的管理支配が及んでいる地域に、外国から船舶又は航空機により覚せい剤を持ち込む場合、覚せい罪取締法一三条、四一条の輸入罪は、覚せい剤を船舶から保税地域に陸揚げし、あるいは税関空港に着陸した航空機から覚せい剤を取りおろすことによつて既遂に達する。 二 保税地域、税関空港等外…
事件番号: 昭和33(あ)2335 / 裁判年月日: 昭和37年5月1日 / 結論: 破棄自判
一 出入国管理令第二五条第二項の規定に違反して出国した被告人の所為につき、同令第七一条を適用処断した原判決は、憲法第二二条第二項に違反するものでないこと明らかである。 二 密入国者がその密入国に際して、携帯貨物を税関の許可を受けないで、携帯輸入したときは、その密入国の罪と密輸入の罪とは併合罪の関係にある。
事件番号: 昭和26(あ)2478 / 裁判年月日: 昭和27年11月14日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】不承認での輸出入行為と無免許での輸出入行為が同時に行われた場合、それらは一個の行為で数個の罪名に触れるものとして、刑法54条1項前段の観念的競合の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、機帆船を用いて黒糖や石油、粉乳等の貨物を、主務大臣の承認を得ることなく、かつ税関長の免許を受けることなく輸出入…
事件番号: 昭和51(あ)661 / 裁判年月日: 昭和51年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】覚せい剤を隠匿携帯して本邦に搬入し、税関を通過する際に発見された場合、覚せい剤取締法違反(輸入)と関税法違反(無許可輸入)は、自然的・社会的見解上一個の行為と評価でき、観念的競合(刑法54条1項前段)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、覚せい剤取締法上輸入が禁止され、かつ関税定率法上の有税…