一 覚せい剤について不正の行為により関税を免れた者に対し関税法一一〇条の罪の成立を認めても、憲法三八条一項にいう「自己に不利益な供述」を強要したことにはならない。 二 覚せい剤について不正の行為により関税を免れた者は、関税法一一〇条一項一号に掲げる者に該当する。
一 覚せい剤について不正の行為により関税を免れた者に対し関税法一一〇条の罪の成立を認めることと憲法三八条一項 二 覚せい剤について不正の行為により関税を免れた者と関税法一一〇条一項一号
憲法38条1項,関税法67条,関税法72条,関税法110条
判旨
覚せい剤の輸入申告義務は関税の適正な徴収等を目的とする合理的制度であり、その不履行を関税逋脱罪として処罰することは、憲法38条1項の自己不利益供述の強要に当たらない。また、輸入が禁止されている覚せい剤であっても関税の課税対象となる貨物に該当する。
問題の所在(論点)
覚せい剤のような輸入禁止薬物であっても関税法上の「貨物」として課税対象となるか。また、輸入禁止物品の輸入申告を義務付け、その不履行を関税逋脱罪として処罰することは、憲法38条1項の黙秘権(自己負罪拒否特権)を侵害しないか。
規範
行政上の目的から課された申告義務の不履行を刑事罰の構成要件とすることが、憲法38条1項に抵触するか否かは、当該申告制度の目的、性質、及び刑事手続との関連性から判断される。1. 申告が刑事責任の追及を直接の目的とするものではなく、2. 行政事務(関税の賦課徴収等)の適正な処理を目的とする手続の一環であり、3. 本邦に入国するすべての者に対し、貨物の種類を問わず一律に義務付けられた必要かつ合理的な制度である場合には、これに基づき刑事責任を問うことは自己に不利益な供述を強要するものとはいえない。
重要事実
被告人は、覚せい剤粉末を木彫置物内に隠匿し、本邦入国時に税関長への申告を行わず、不正の行為により関税(約15万円)を免れたとして、関税法110条1項1号(関税逋脱罪)等の罪に問われた。弁護人は、覚せい剤の輸入申告は犯罪事実の告白を強いるものであり、同条を適用して処罰することは憲法38条1項に違反すると主張した。
事件番号: 昭和53(あ)157 / 裁判年月日: 昭和54年5月10日 / 結論: 棄却
許可を受けないで覚せい剤を輸入した者に対し関税法一一一条の罪の成立を認めても、憲法三八条一項にいう「自己に不利益な供述」を強要したことにはならない。
あてはめ
関税法に基づく輸入申告は、関税の公平な徴収や税関事務の適正処理を目的とするものであり、刑事責任の追及を目的としたり、捜査資料の取得に直接結びついたりする性質のものではない。また、この義務は入国者全員に一律に課されており、内容も課税標準の算出に必要な事項に限られ、目的達成に必要かつ合理的な範囲に留まる。したがって、輸入禁止物品である覚せい剤を秘匿して関税を免れた場合に、申告義務の不履行を前提とする関税逋脱罪を適用したとしても、自己不利益供述を強要したとはいえない。さらに、覚せい剤も経済的価値を有する以上、課税対象たる「貨物」に該当し、不法な輸入であっても関税逋脱罪の客体となり得る。
結論
覚せい剤の輸入に関税法110条を適用して処罰することは憲法38条1項に違反せず、同罪は適法に成立する。
実務上の射程
行政上の義務違反が刑事責任の前提となる場合の憲法38条1項の限界を示す重要判例。酒税法や所得税法等の脱税犯、または所持・輸入等の申告義務全般において、その制度が「刑事追及を直接の目的としない行政上の合理的なもの」であれば、黙秘権侵害の主張を排斥する根拠として答案上で活用できる。
事件番号: 昭和54(あ)2089 / 裁判年月日: 昭和55年6月11日 / 結論: 棄却
密輸入にかかる本件覚せい剤(判文参照)を没収するについては、刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法二条二項に定める公告の方法は、検察庁の掲示場における掲示で足りる。
事件番号: 昭和57(あ)568 / 裁判年月日: 昭和57年7月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白について、原判決が認定に用いた他の証拠によって十分な補強がなされている場合には、憲法38条3項(自白のみによる処罰の禁止)に違反しない。 第1 事案の概要:被告人の自白が存在し、それに基づき有罪判決が下された事案において、弁護人が「自白は補強されていない」として、憲法38条3項違反(補…
事件番号: 昭和49(あ)1185 / 裁判年月日: 昭和49年9月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】未決の余罪を量刑の資料として考慮することは、実質的に当該余罪を処罰する趣旨でない限り、憲法31条に違反せず許容される。 第1 事案の概要:被告人の刑事裁判において、第一審裁判所が被告人の余罪を量刑の資料として用いた。弁護人は、これが実質的に余罪を処罰するものであるとして、憲法31条(適正手続)違反…
事件番号: 平成27(あ)416 / 裁判年月日: 平成28年12月9日 / 結論: 棄却
税関職員が,郵便物の輸出入の簡易手続として,輸入禁制品の有無等を確認するため,郵便物を開披し,その内容物を目視するなどした上,内容物を特定するため,必要最小限度の見本を採取して,これを鑑定に付すなどした本件郵便物検査(判文参照)を,裁判官の発する令状を得ずに,郵便物の発送人又は名宛人の承諾を得ることなく行うことが,関税…