1 刑訴法382条の事実誤認とは,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることをいう。 2 控訴審が第1審判決に事実誤認があるというためには,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることを具体的に示す必要がある。 3 覚せい剤を密輸入した事件について覚せい剤を輸入する認識がなかった旨の弁解が排斥できないなどとして,被告人を無罪とした第1審判決に事実誤認があるとした原判決は,その弁解が客観的事実関係に一応沿うもので第1審判決のような評価も可能であることなどに照らすと,第1審判決が論理則,経験則等に照らして不合理であることを十分に示したものとはいえず(判文参照),刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があり,同法411条1号により破棄を免れない。 (1〜3につき補足意見がある。)
1 刑訴法382条にいう事実誤認の意義 2 刑訴法382条にいう事実誤認の判示方法 3 覚せい剤を密輸入した事件について,被告人の故意を認めず無罪とした第1審判決に事実誤認があるとした原判決に,刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があるとされた事例
(1〜3につき)刑訴法382条,(2につき)刑訴法397条1項,(3につき)刑訴法411条1号
判旨
控訴審における事実誤認の審査は、第1審判決が行った証拠の信用性評価や証拠の総合判断が論理則、経験則等に照らして不合理といえるかという観点から行うべきものであり、裁判員裁判の導入後はこの原則がより強く妥当する。
問題の所在(論点)
被告人が覚せい剤の存在を認識していたか(故意の有無)という事実認定に関し、第1審の無罪判決を破棄して有罪とした原判決に、刑訴法382条の解釈適用の誤り(事実誤認の審査手法の誤り)があるか。
規範
刑訴法382条の「事実誤認」とは、第1審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることをいう。控訴審が第1審判決を破棄するためには、単に自らと異なる心証を抱くだけでは足りず、第1審の判断過程における不合理性を具体的に示さなければならない。特に直接主義・口頭主義が徹底される裁判員裁判においては、第1審の判断をより尊重すべきである。
事件番号: 平成24(あ)744 / 裁判年月日: 平成26年3月10日 / 結論: 棄却
覚せい剤の密輸入事件について,被告人から指示を受けていたとする共犯者供述の信用性を否定して被告人を無罪とした第1審判決には事実誤認があるとした原判決は,第1審判決が,受信は記録されていないなどの通話記録の性質に十分配慮せず,それと同共犯者供述との整合性を細部について必要以上に要求するなどしたことや,同共犯者に指示を与え…
重要事実
被告人はクアラルンプールから覚せい剤約1kgを隠匿したチョコレート缶を輸入したとして起訴された。被告人は「偽造旅券の密輸を依頼されたが、覚せい剤の認識はなかった」と弁解。第1審(裁判員裁判)は、偽造旅券を所持していた客観的事実や、覚せい剤の隠匿場所である缶の検査には素直に応じたこと等の事情から、被告人の弁解を排斥できず無罪とした。これに対し原審(控訴審)は、供述の変遷や不自然な重さ等の間接事実を再評価し、第1審には事実誤認があるとして有罪を言い渡した。
あてはめ
原判決が指摘する「供述の変遷」や「重さの違和感」、「逮捕時の態度」等の間接事実は、被告人に覚せい剤の認識があったと推認する一事情にはなり得る。しかし、被告人が実際に偽造旅券を隠し持っていたことや、知人の不利益を避けるために供述を変遷させた可能性等の諸事情を考慮すれば、これら事実は「認識がなかった」とする被告人の弁解とも一応両立し得る。第1審判決はこれらの事情を総合的に評価し、合理的な疑いが残ると判断したものであり、その論理展開に論理則・経験則上の不合理があるとは認められない。したがって、原判決は第1審の不合理性を具体的に示せていないといえる。
結論
原判決には事実誤認の審査手法に誤りがあり、破棄を免れない。第1審判決は不合理とはいえず、検察官の控訴を棄却すべきである。
実務上の射程
刑事訴訟法における控訴審の事後審的性格を明確にし、特に裁判員裁判における第1審の事実認定の尊重義務を確立した重要判例。答案作成上は、控訴審が「自らの心証」で第1審を上書きすることを戒める文脈で使用する。
事件番号: 平成24(あ)167 / 裁判年月日: 平成25年4月16日 / 結論: 棄却
覚せい剤を密輸入した事件について,被告人の故意を認めながら共謀を認めずに無罪とした第1審判決には事実誤認があるとした原判決は,被告人が,犯罪組織関係者から日本に入国して輸入貨物を受け取ることを依頼され,その中に覚せい剤が隠匿されている可能性を認識しながらこれを引き受けたという本件事実関係の下では,特段の事情がない限り,…
事件番号: 平成24(あ)724 / 裁判年月日: 平成25年10月21日 / 結論: 棄却
密輸組織が関与する覚せい剤の密輸入事件について,被告人の覚せい剤に関する認識を否定して無罪とした第1審判決に事実誤認があるとした原判決は,この種事案に適用されるべき経験則等を示しつつ,被告人は覚せい剤が隠匿されたスーツケースを日本に運ぶよう指示又は依頼を受けて来日したと認定するなどした上,被告人の覚せい剤に関する認識を…
事件番号: 平成1(あ)1038 / 裁判年月日: 平成2年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】覚せい剤の輸入・所持において、当該物件が覚せい剤であると確定的に認識していなくても、身体に有害で違法な薬物類であるとの認識があれば、覚せい剤輸入・所持罪の故意を認めることができる。 第1 事案の概要:被告人は、本件物件を密輸入して所持した。その際、被告人は、当該物件が「覚せい剤」そのものであると確…
事件番号: 平成23(あ)469 / 裁判年月日: 平成23年10月26日 / 結論: 棄却
1 訴訟条件である告発の存在は,上告審において,証拠調手続によることなく,適宜の方法で認定することができ,関税法140条所定の告発書の謄本が原判決後に原審に提出されて記録につづられ,その写しが上告審から弁護人に送付されている事情の下では,上告審は上記謄本により告発の事実を認定することができる。 2 1,2審が訴訟条件で…