殺人1件,傷害致死1件等の事案につき,無期懲役の量刑が維持された事例(中国人妻による替え玉殺人事件)
刑法9条,刑法199条,刑法205条,刑訴法411条2号
判旨
死刑の選択が検討される事案であっても、殺害された被害者が1名であることや、併合罪の関係にある傷害致死事件の態様が不明であること等の諸事情を考慮し、無期懲役を選択した第1審判決を維持した原判決は相当であり、著しく正義に反するとはいえない。
問題の所在(論点)
死刑選択の基準(永山基準)に照らし、被害者が1名の殺人事件と傷害致死事件等が併合罪となる本件において、無期懲役を選択したことが量刑不当として著しく正義に反するか。
規範
死刑の選択については、犯行の性質、動機、態様、特に殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性、特に殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等、諸般の事情を併せ考察し、その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも死刑の選択がやむを得ないと認められる場合に許される。被害者が1名である場合には、特に慎重な検討を要する。
重要事実
被告人は、夫を不詳の方法で死亡させた(傷害致死)。その後、夫の資産を相続名目で不正入手するため、別の男性を夫の身代わりとして監禁。インスリン投与を中断させて糖尿病を悪化させ、冷酷な方法で殺害した(殺人)。さらに、文書偽造等により土地登記移転や預貯金約2900万円を詐取した。第1審は、殺人被害者が1名であることや、傷害致死の動機・状況が不明であることを理由に無期懲役を選択し、原審もこれを維持した。
あてはめ
被告人の刑事責任は誠に重大である。特に殺人の動機は利欲的で非道であり、監禁により長時間苦痛を与える犯行態様は冷酷かつ計画的である。2名の生命を奪った結果も重く、遺族の処罰感情も峻烈である。しかし、殺人事件の被害者は1名にとどまり、傷害致死事件については動機や経緯が不明である。これらを考慮すると、本件が「非常に強い悪質性のある事案」とまで断定しきれないとした第1審の判断は、死刑選択の慎重な姿勢に照らして不合理とはいえない。
事件番号: 平成19(あ)352 / 裁判年月日: 平成23年4月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】2名の殺害を含む一連の犯行について、動機に酌量の余地がなく殺害態様も冷酷非道である場合、被告人の病状や一定の反省等の事情を考慮しても、死刑を選択した一審判決の維持は相当である。 第1 事案の概要:被告人は、保険金詐欺の発覚を恐れ、加害者役のAに睡眠導入剤を飲ませて抵抗力を奪い、頸部圧迫により窒息死…
結論
本件において死刑を選択しないことが著しく正義に反するとまでは認められない。したがって、無期懲役を維持した原判決は妥当である。
実務上の射程
被害者が1人の殺人事件において、併合罪として別の死亡結果(傷害致死等)が存在する場合でも、直ちに死刑が選択されるわけではなく、個別の犯行態様の悪質性や解明度を慎重に評価すべきであることを示している。答案上は、死刑選択の慎重性を強調する文脈で活用できる。
事件番号: 平成21(あ)1802 / 裁判年月日: 平成23年3月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑適用を検討すべき極めて重大な刑事責任が認められる事案であっても、殺意の程度(未必的殺意)や計画性の欠如、謝罪の態度等の有利な事情を総合考慮し、無期懲役刑を維持した原判決が甚だしく不当とはいえないと判断した。 第1 事案の概要:被告人は、離婚した元妻との復縁を求め、銃器を用いて警察官1名を射殺、…
事件番号: 平成9(あ)479 / 裁判年月日: 平成11年12月10日 / 結論: 破棄差戻
一人暮らしの老女を冷酷かつ残虐な方法で殺害しその金品を強取した強盗殺人の犯行において、被告人が、共犯者との関係で主導的役割を果たしたこと、強盗殺人罪により無期懲役に処せられて服役しながら、その仮出獄中に再び右犯行に及んだこと等の諸点(判文参照)を総合すると、被告人の罪責は誠に重大であって、特に酌量すべき事情がない限り、…
事件番号: 平成18(あ)1741 / 裁判年月日: 平成21年12月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の量刑を維持した原判決が適法とされた事例(永山基準の踏襲) 第1 事案の概要:被告人は、暴力団関係者らと共謀し、営利誘拐を計画。被害者(当時20歳)を連れ出した上で、身代金1,500万円を要求した。その後、発覚を恐れて被害者の生命を奪うことを決意し、首を絞めて窒息死させた。犯行態様は計画的かつ…