性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者の妻が婚姻中に懐胎した子は,民法772条の規定により夫の子と推定されるのであり,夫が妻との性的関係の結果もうけた子であり得ないことを理由に実質的に同条の推定を受けないということはできない。 (補足意見及び反対意見がある。)
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者の妻が婚姻中に懐胎した子と嫡出の推定
民法772条,戸籍法13条8号,戸籍法施行規則35条16号,性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条,性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律4条
判旨
性同一性障害特例法に基づき男性への性別変更の審判を受けた者が、婚姻中に妻が懐胎した子との関係において、民法772条による嫡出推定を受けることができるか。また、客観的に血縁関係がないことが明らかな場合であっても、戸籍事務管掌者が父の欄を空欄とするなどの処理をすることが許されるか。
問題の所在(論点)
性同一性障害特例法により男性とみなされる夫と、妻が婚姻中に懐胎した子との間に、民法772条による嫡出の推定が及ぶか(戸籍法113条に基づく戸籍訂正の可否)。
規範
1. 性同一性障害特例法4条1項により、性別の取扱いの変更の審判を受けた者は、民法その他の法令の適用に関し、変更後の性別に変わったものとみなされる。したがって、男性への変更を受けた者は、民法上の夫として婚姻できるだけでなく、婚姻中に妻が懐胎した子について、民法772条の規定による嫡出推定を受ける。 2. 従来の判例により、夫婦の実態がない等「性的関係を持つ機会がなかったことが明らか」な場合には推定が及ばない(推定の及ばない嫡出子)とされるが、性別変更者については、婚姻を認めながら妻との性的関係により子をもうけ得ないことを理由に推定を否定することは、特例法の趣旨に照らし相当ではない。
事件番号: 平成30(ク)269 / 裁判年月日: 平成31年1月23日 / 結論: 棄却
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号は,憲法13条,14条1項に違反しない。 (補足意見がある。)
重要事実
1. X1(生物学的女性)は性同一性障害特例法に基づき男性への性別変更審判を受け、その後X2(女性)と婚姻した。 2. X2は、夫X1の同意の下、第三者の精子を用いた人工授精により懐胎し、男児Aを出産した。 3. X1がAを嫡出子とする出生届を提出したが、戸籍事務管掌者は、戸籍の記載からX1とAに血縁関係がないことが明らかであるとして、民法772条の推定が及ばないことを前提に父の欄を空欄とする戸籍記載を行った。
あてはめ
1. 特例法4条1項は「みなす」と規定しており、特例法が婚姻を認める以上、婚姻の主要な効果である嫡出推定の適用を排除すべきではない。夫が性別変更者であり、妻を自然生殖により懐胎させる能力がないことは制度上明らかであるが、これを「性的関係を持つ機会がないことが明らかな事情」と同視して推定を否定することは、婚姻を認めた特例法の趣旨を没却するものである。 2. 本件では、Aは妻X2が婚姻中に懐胎した子であり、他に「夫婦の実態が失われていた」等の特段の事情もうかがわれない。したがって、Aには民法772条による嫡出推定が及ぶというべきである。 3. 以上の結果、戸籍事務管掌者が血縁関係の不存在を理由に父の欄を空欄としたことは法律上許されず、戸籍の訂正が認められるべきである。
結論
性別変更審判を受けた夫の子として民法772条の推定は及ぶ。したがって、父の欄を空欄とする戸籍記載は違法であり、訂正を許可すべきである。
実務上の射程
本判決は、特例法による「みなし」規定を重視し、生物学的な父子関係の不可能性(生殖能力の欠如)が制度的に明白な場合であっても、法的父子関係を成立させる手段として民法772条を適用することを認めた。これは、婚姻制度における家族形成の安定性を優先する判断であり、生殖補助医療による親子関係の規律にも影響を与える重要な判断基準を示している。
事件番号: 令和2(ク)993 / 裁判年月日: 令和5年10月25日 / 結論: 破棄差戻
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号は、憲法13条に違反する。 (個別意見がある。)
事件番号: 令和1(ク)791 / 裁判年月日: 令和2年3月11日 / 結論: 棄却
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項2号は,憲法13条,14条1項,24条に違反しない。
事件番号: 令和2(ク)638 / 裁判年月日: 令和3年11月30日 / 結論: 棄却
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項3号は,憲法13条,14条1項に違反しない。 (反対意見がある。)
事件番号: 昭和25(ク)156 / 裁判年月日: 昭和26年3月31日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所に対する抗告申立ては、民事訴訟法上の特別抗告(現行336条)に限定され、その抗告理由は憲法適合性の判断に関する不服に限られる。 第1 事案の概要:抗告人が最高裁判所に対して抗告を申し立てた事案。抗告人が主張した抗告理由は、原決定において法律・命令・規則・処分が憲法に適合するか否かの判断を…