吐物の誤嚥は,傷害保険普通保険約款において保険金の支払事由として定められた「外来の事故」に該当する。 (補足意見がある。)
吐物の誤嚥は傷害保険普通保険約款において保険金の支払事由として定められた「外来の事故」に該当するか
商法(平成20年法律第57号による改正前のもの)第2編第10章 保険,保険法第2章 損害保険,民法91条
判旨
傷害保険約款にいう「外来の事故」とは、被保険者の身体の外部からの作用による事故を指し、吐物の誤嚥による窒息は、その原因が胃の内容物であっても外部からの作用を伴うため、これに該当する。
問題の所在(論点)
吐物の誤嚥による窒息死が、傷害保険約款にいう保険金支払事由としての「外来の事故」に該当するか。特に、胃の内容物が逆流して誤嚥された場合に「外部からの作用」といえるかが問題となる。
規範
傷害保険約款における「外来の事故」とは、被保険者の身体の外部からの作用による事故をいう。誤嚥(嚥下した物が食道ではなく気道に入ること)は、身体の外部からの作用を当然に伴うものであるから、たとえその対象物が被保険者の胃の内容物である吐物であったとしても、「外来の事故」に該当すると解するのが相当である。
重要事実
被保険者Aは、飲酒および薬物服用後に嘔吐し、薬物の副作用等により気道反射が著しく低下していたため、吐物を誤嚥して窒息死した。Aが締結していた保険契約の約款には、保険金の支払事由として「急激かつ偶然な外来の事故」による傷害が定められていたが、保険者は、窒息の原因は体内摂取物の影響による身体の異変であって外部からの作用ではないとして、保険金の支払を拒絶した。
あてはめ
誤嚥は、本来食道に入るべき物質が気管に入る現象であり、これ自体が身体の外部からの作用を伴うものである。本件において、Aの死因は吐物誤嚥による気道閉塞であり、この機序は外部からの作用によるものといえる。アルコールや薬物の影響による気道反射の低下という内部的要因があったとしても、事故の直接的な引き金となった誤嚥自体の外来性は否定されない。したがって、吐物が口腔を経て気管に流入する過程は、身体の外部からの作用による事故にあたると評価される。
結論
吐物の誤嚥による窒息は、傷害保険約款上の「外来の事故」に該当する。したがって、原審の判断には法令の違反があり、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
本判決は「外来性」の判断において、事故の機序が身体外部からの作用を伴うか否かを重視する。内部疾患や薬物摂取が事故の誘因(反射低下等)となっていたとしても、最終的な傷害・死亡の原因が誤嚥という物理的な外部作用である限り、外来性を認める。実務上は、原因物質がもともと体内(胃)にあったか否かではなく、それが気管という本来あるべからざる場所へ「外部」から侵入したかという観点から論じるべきである。
事件番号: 平成19(受)301 / 裁判年月日: 平成19年10月19日 / 結論: 破棄差戻
自動車総合保険契約の人身傷害補償特約が,「自動車の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により被保険者が身体に傷害を被ること」を保険金支払事由と定め,被保険者の疾病によって生じた傷害に対しては保険金を支払わない旨の規定を置いていない場合,自動車の運行に起因する事故等が被保険者の疾病によって生じたときであ…