自家用自動車保険契約普通保険約款の搭乗者傷害条項に,「被保険自動車の正規の乗車装置等に搭乗中の者が,被保険自動車の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故により身体に傷害を被り,その直接の結果として死亡したこと」が死亡保険金の支払事由であると定められている場合において,被保険自動車の運転者が,夜間,高速道路において自損事故を起こし,これにより走行不能となった上記自動車から降りて路肩付近に避難したが,その直後に後続車にれき過されて死亡したことは,(1)当該運転者が後続車の衝突等により身体の損傷を受けかねない切迫した危険を避けるために車外に避難せざるを得ない状況に置かれたこと,(2)その避難行動は避難経路も含めて上記危険にさらされた者の行動として自然なものであったこと,(3)上記れき過が上記自損事故と時間的にも場所的にも近接して生じていることなど判示の事情の下では,上記自損事故と上記れき過による死亡との間に相当因果関係が認められ,上記条項における死亡保険金の支払事由に該当する。
夜間高速道路において自動車を運転中に自損事故を起こし車外に避難した運転者が後続車にれき過されて死亡したことが自家用自動車保険契約普通保険約款の搭乗者傷害条項における死亡保険金の支払事由に該当するとされた事例
民法91条,商法第2編第10章 保険
判旨
高速道路での自損事故により車外避難を余儀なくされた運転手が後続車に轢過され死亡した場合、車外での負傷であっても事故との相当因果関係が認められる限り、搭乗者傷害条項の保険金支払事由に該当する。
問題の所在(論点)
自損事故後の避難中に車外で轢過された場合について、搭乗者傷害条項の「搭乗中の者が運行起因事故により傷害を被った」といえるか、および事故と死亡との因果関係が認められるか。
規範
搭乗者傷害条項における「運行に起因する事故により身体に傷害を被り、その直接の結果として死亡した場合」とは、運行起因事故と死亡との間に相当因果関係があることを指す。かかる傷害は、事故と相当因果関係がある限り、被保険者が自動車の搭乗中に被ったものに限定されないと解すべきである。
重要事実
運転手Aは夜間の高速道路で自損事故を起こし、車両が走行不能となって車線上に停止した。現場は街灯がなく暗い状況であった。Aは後続車の衝突を避けるため車外に出て路肩へ避難しようとした直後、後続車に衝突・轢過され死亡した。保険約款には、被保険者が搭乗中に運行起因事故により傷害を被り、直接の結果として死亡した場合に保険金を支払う旨の規定があった。
あてはめ
本件自損事故により、Aは車内に留まれば後続車の衝突により身体を損傷しかねない切迫した危険にさらされ、車外避難を余儀なくされた。Aの避難行動は危険にさらされた者の行動として極めて自然であり、事故と時間的・場所的に近接している。このような状況下では、他の行動を採ることは期待できず、自損事故と轢過による死亡との間には相当因果関係がある。また、車内で負傷すれば支払われ、避難して車外で負傷すれば支払われないとするのは不合理である。したがって、車外での負傷であっても、本件自損事故という運行起因事故により傷害を被ったものと評価できる。
結論
Aの死亡は搭乗者傷害条項の支払事由に該当し、保険会社は死亡保険金の支払義務を負う。
実務上の射程
保険約款の「搭乗中」という文言の形式的解釈にとらわれず、事故による危険から派生した一連の行動(避難行為等)についても相当因果関係の枠組みで保護範囲を画定した点に実務上の意義がある。答案では、事故後の合理的行動に伴う損害を因果関係の範囲内に取り込む際の有力な根拠となる。
事件番号: 昭和63(オ)1561 / 裁判年月日: 平成元年3月9日 / 結論: 棄却
一 自家用自動車保険普通保険約款の搭乗者傷害条項一条にいう「正規の乗車用構造装置のある場所に搭乗中の者」とは、当該乗車用構造装置の本来の用法によつて搭乗中の者をいう。 二 普通乗用自動車の走行中、助手席の窓かち上半身を車外に出し、頭部を自動車の天井よりも高い位置まで上げ、右手で窓枠をつかみ、左手を振り上げる動作をしてい…