故意によつて生じた損害をてん補しない旨の自家用自動車保険普通保険約款の条項は、傷害の故意に基づく行為により被害者を死亡させたことによる損害賠償責任を被保険者が負担した場合には、適用されない。
故意によつて生じた損害をてん補しない旨の自家用自動車保険普通保険約款の条項が適用されない場合
民法91条,商法641条
判旨
自動車保険の免責条項にいう「故意によって生じた損害」とは、傷害の故意に基づく行為により予期せぬ死亡の結果を生じさせた場合には適用されない。保険契約当事者の合理的意思に照らせば、傷害と死亡は質的に異なり、傷害の故意のみで死亡損害まで免責とすることは当事者の通常の意思に反するからである。
問題の所在(論点)
自動車保険普通保険約款における免責条項(被保険者の故意によって生じた損害をてん補しない旨の規定)は、傷害の故意に基づく行為により、予期しなかった死亡の結果を生じさせた場合(傷害致死)にも適用されるか。
規範
「故意によって生じた損害」をてん補しない旨の免責条項の解釈にあたっては、保険者の免責が例外的規定であることを踏まえ、原因行為者の故意を理由に免責を及ぼすのが一般保険契約当事者の通常の意思といえるか、あるいは免責条項の趣旨(信義則・公序良俗)を没却するかという見地から、当事者の合理的意思を確定すべきである。傷害と死亡は被害の重大性において質的な違いがあり、損害賠償責任の範囲にも大きな差異があるため、傷害の故意に基づく行為により予期せぬ死の結果が生じた場合、当該死亡損害については免責条項は適用されない。
重要事実
加害者Dは、被害者Eが並走しながら自車のドアノブを掴むなどして発進を阻止しようとした際、Eを転倒・負傷させることを認識・認容しつつ(傷害の未必の故意)、逃走のために車を急加速させた。その結果、Eは路上に転倒して頭蓋骨骨折等の傷害を負い、その3日後に死亡した(傷害致死)。Dが締結していた自動車保険には「被保険者の故意によって生じた損害」を免責とする条項があったため、被害者の遺族である上告人らが保険会社に対し損害賠償を請求したところ、保険会社側が免責を主張して争った。
あてはめ
本件において、DはEを転倒・負傷させることについては未必の故意があったと認められるが、死の結果については予期していなかった。傷害と死亡とでは被害の重大性において質的な差異があり、それに伴う損害額も大きく異なる。このような場合、傷害の故意があるからといって、死亡という重大な結果に伴う損害までを被保険者が自ら招致した保険事故として免責の対象とすることは、一般の保険契約当事者の合理的な意思に合致しない。また、死亡損害について保険金を支払うことが、直ちに信義則や公序良俗に反し免責条項の趣旨を没却するともいえない。したがって、本件の死亡損害は免責条項にいう「故意によって生じた損害」には当たらない。
結論
本件免責条項は、傷害の故意に基づく行為により被害者を死亡させたことによる損害賠償責任については適用されない。よって、保険会社は損害をてん補すべき責任を負う。
実務上の射程
対人賠償責任保険における「故意」の射程を限定した重要な判例である。答案上は、結果的加重犯的な状況(傷害致死等)において、免責条項の「故意」に結果への故意が含まれるかを論じる際の根拠として用いる。当事者の合理的意思解釈を手法としている点に注目すべきである。
事件番号: 平成10(オ)897 / 裁判年月日: 平成13年4月20日 / 結論: 棄却
生命保険契約に付加された災害割増特約における災害死亡保険金の支払事由を不慮の事故による死亡とする約款に基づき,保険者に対して災害死亡保険金の支払を請求する者は,発生した事故が偶発的な事故であることについて主張,立証すべき責任を負う。 (補足意見がある。)
事件番号: 平成17(受)2058 / 裁判年月日: 平成18年6月6日 / 結論: その他
「衝突,接触…その他偶然な事故」を保険事故とする自動車保険契約の約款に基づき,車両の表面に傷が付けられたことが保険事故に該当するとして,保険者に対して車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わない。