自家用自動車保険の保険契約者又は被保険者が保険者に対してすべき対人事故の通知を懈怠したときには保険者は原則として事故に係る損害を填補しない旨の普通保険約款の規定は、当該対人事故の通知義務の懈怠につき約款所定の例外的事由がない場合でも、保険契約者又は被保険者が保険金の詐取等保険契約上における信義誠実の原則上許されない目的のもとに通知を懈怠したときを除き、保険者において填補責任を免れうるのは通知を受けなかつたため取得することのあるべき損害賠償請求権の限度においてであることを定めたものと解すべきである。
自家用自動車保険普通保険約款所定の対人事故通知義務の懈怠の効果
商法658条
判旨
自動車保険の事故通知義務懈怠による免責条項の適用に関し、信義則上許されない目的がない限り、保険者は通知懈怠により生じた実際の損害額の限度でのみ免責されると判断した。
問題の所在(論点)
保険約款上の事故通知義務に違反した場合、保険者は当然に全額の保険金支払義務を免れるか。通知懈怠による免責の範囲と、免責条項の解釈が問題となる。
規範
1. 事故通知義務は保険契約上の債務であり、保険者が損害拡大防止や事故調査を速やかに行うことを目的とする。2. 保険者が全額免責となるのは、被保険者が保険金詐取や調査妨害等の信義則上許されない目的で通知を怠った場合に限られる。3. 上記目的がない場合、保険者は通知懈怠によって被保険者が損害(適切な調査機会の喪失等による損害)を被ったことを主張・立証したときに限り、その損害賠償請求権と対当額で相殺的に免責されるにとどまる。
重要事実
保険契約者(有限会社D)及び被保険者が、自動車事故の発生から約定の60日以内に事故通知を行わなかった。当該保険約款には、正当な理由なく期間内に通知がない場合は保険金を支払わない旨の免責条項が存在した。しかし、本件事故は被害者が即死に近い状態であり、速やかな通知があっても損害拡大を防止できる余地は殆どなかった。また、損害額は別件の確定判決により適正に算出されていた。
あてはめ
本件において、保険契約者らに保険金詐取や調査妨害といった信義則に反する不当な目的があった事実は認められない。また、被害者が即死に近い状態であったことから、早期通知による損害拡大防止の余地もなかった。さらに、損害額は確定判決により客観的に妥当な額が算定されており、保険者が通知懈怠によって具体的な調査上の不利益(損害)を被ったとの主張・立証もなされていない。したがって、保険者は本件事故に係るてん補責任を免れることはできない。
結論
特段の不当な目的や具体的な損害の発生が証明されない限り、保険者は事故通知義務の懈怠のみを理由に全額免責を主張することはできず、本件の保険金支払義務を免れない。
実務上の射程
保険約款上の「通知を怠ったときは支払わない」という文言の射程を、信義則及び義務の性質から制限的に解釈する。答案上は、約款の文言通りの免責を制限する際の判断枠組みとして、(1)不当な目的の有無、(2)具体的損害の有無・範囲という二段構えの考慮要素を用いるべきである。
事件番号: 昭和63(オ)1735 / 裁判年月日: 平成5年3月30日 / 結論: その他
保険契約者又は被保険者が住宅火災保険の目的である建物の譲渡につき保険者に対する通知義務を怠つたときには保険者は保険金の支払が免責される旨の普通保険約款の条項は、保険契約者又は被保険者が保険者に対して譲渡後遅滞なく右通知義務を履行することを怠つている間に保険事故が発生した場合に保険者が免責されることを定めているものと解す…