保険者が填補すべき損害の範囲を契約所定の保険事故たる被傭者の不正行為によつて直接惹起された損害のみとする信用保険契約にあつては、特約のないかぎり、右不正行為による損害の調査のため被保険者たる雇主が公認会計士に支払つた費用ならびに右不正行為の告訴手続および本件保険金請求訴訟提起等のため弁護士に支払つた費用は、右填補すべき損害の範囲に含まれない。
信用保険契約における損害填補の範囲。
商法629条,商法638条2項
判旨
信用保険契約において、保険者の填補責任が保険事故により直接惹起された損害に限定される特約がある場合、相当因果関係がある損害であっても当然には填補の対象とならない。したがって、公認会計士や弁護士への支払費用が「直接損害」に該当するか否か、および商法上の規定との関係を個別具体的に判断すべきである。
問題の所在(論点)
信用保険契約において「直接惹起された損害」に限定する特約がある場合、通常であれば相当因果関係が認められる範囲の損害(公認会計士費用や弁護士費用)について、保険者の填補責任が及ぶか。
規範
損害保険において、保険者は原則として保険事故と相当因果関係のある損害を填補する義務を負うが、保険契約の特異性に基づき、填補範囲を「直接惹起された損害(直接損害)」に限定する旨の特約を設けることは有効である。この場合、相当因果関係が認められるにすぎない損害(間接的な費用等)については、特約がない限り填補の対象とはならない。
重要事実
上告人(保険会社)と被上告人の間で、従業員Fの不正行為を対象とする信用保険契約が締結された。その後、Fの金員窃取・横領が発生し、被上告人はその調査や対応のために公認会計士および弁護士に費用を支払った。被上告人はこれら費用を保険事故による損害として請求したが、保険約款等には「不正行為により直接惹起された損害」のみを填補する旨の記載があった。原審は、これら費用が直接損害ではないものの、相当因果関係がある損害に当たるとして請求を認めたため、上告人が上告した。
あてはめ
本件信用保険契約では、保険者の責任がFの不正行為により「直接惹起された損害」のみに及ぶとの約定が存在する。一般に損害保険では相当因果関係のある損害を填補するが、本件のような限定特約がある場合、公認会計士や弁護士に支払った費用は、当然には保険事故による損害として認められない。原審は、当該費用が「直接損害」に該当するか否か、また商法638条2項(現:保険法等)との関係を検討せずに、単に相当因果関係があることを理由に支払義務を認めており、審理不尽・理由不備の違法がある。
結論
保険者の責任範囲が「直接損害」に限定されている場合、相当因果関係のみを理由に公認会計士費用等の賠償を命じることはできず、当該費用が直接損害に該当するかを改めて審理すべきである。
実務上の射程
保険法上の損害填補の範囲に関する判断枠組みとして活用できる。特に「相当因果関係」という一般原則に対し、契約上の特約による制限(直接損害への限定)が先行することを明示した点に実務上の意義がある。答案では、約款の文言解釈と損害の性質(直接か間接か)を区別して論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和54(オ)34 / 裁判年月日: 昭和57年1月19日 / 結論: その他
一 被保険者の運行供用者責任の成否について保険会社が争つたため、交通事故の被害者が自動車損害賠償保障法一六条一項の規定に基づき保険会社に対し損害金支払請求の訴えを提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる限…