被保険車両の所有者(保険契約者・被保険者)が、かねてから情交関係のあった女性と右車両内で寝込んでいたところを右女性の夫に発見され、その場から逃れようとしたが、進路前方に同人が両手を車両のフロントガラスに当て、身体を車体前部に接触させるなどして立ちふさがったため、そのまま右車両を発進すれば車体を同人に衝突させて傷害を負わせる可能性が高いことを認識しながら、それもやむを得ないと考え、その場を逃れたい気持ちからあえて右車両を発進させ、七、八メートル前進した地点で同人を路上に転倒させて、同人に硬膜外血腫、脳挫傷等の傷害を負わせたなど判示の事実関係の下においては、右事故による損害は、保険約款の免責条項に定める保険契約者・被保険者の故意によって生じた損害に当たり、保険会社は、保険金の支払につき免責される。
保険事故が保険契約者・被保険者の故意によるものとして保険会社の免責が認められた事例
商法629条,商法641条
判旨
自動車保険の免責条項にいう「故意によって生じた損害」とは、未必の故意による場合も含まれ、被害者に傷害を負わせる可能性を認識しながらあえて車両を発進させた場合には免責条項が適用される。
問題の所在(論点)
自動車保険の普通保険約款に規定される「故意によって生じた損害」という免責事由に、確定的な殺意や傷害の意図までは認めることができなくとも、結果発生を容認する「未必の故意」が含まれるか。
規範
自動車保険契約における免責条項(保険契約者・被保険者の故意によって生じた損害については填補しない旨の定め)は、特定の行為から一定の結果が生じることを認識し、かつその発生を容認している場合、すなわち未必の故意がある場合であっても適用される。
重要事実
上告人は不倫相手の女性と車内にいた際、その夫に発見された。夫が車両のフロントガラスに両手を当てて立ちふさがったが、上告人はそのまま発進すれば車体を衝突させて傷害を負わせる可能性が高いことを認識しつつ、その場を逃れるためにあえて車両を発進。結果、夫を転倒させ約1年8か月の重傷を負わせた。上告人は保険契約に基づき保険金を請求したが、被上告人(保険会社)は免責条項を主張した。
あてはめ
上告人は、進路を阻む被害者の存在を認識し、このまま発進すれば衝突し傷害を負わせる可能性が高いことを認識していた。その上で、その場を逃れたいという動機から、あえて発進という行為に及んでおり、結果の発生を容認していたといえる。この態様は、免責条項が想定する「故意によって生じた損害」に該当し、評価として単なる過失の域を超えるものである。
結論
本件事故による損害は、免責条項に定める被保険者の故意によって生じた損害に当たるため、保険会社は保険金の支払義務を負わない。
実務上の射程
保険法や自動車保険における「故意」の解釈を示す。未必の故意があれば免責されることを認めたものであり、答案上では、未必の故意を認定する際の「可能性の認識」と「認容」という要素を事案の具体的事実(相手の立ち位置や危険な発進態様など)から丁寧に拾う際の根拠となる。
事件番号: 平成10(オ)897 / 裁判年月日: 平成13年4月20日 / 結論: 棄却
生命保険契約に付加された災害割増特約における災害死亡保険金の支払事由を不慮の事故による死亡とする約款に基づき,保険者に対して災害死亡保険金の支払を請求する者は,発生した事故が偶発的な事故であることについて主張,立証すべき責任を負う。 (補足意見がある。)
事件番号: 平成17(受)2058 / 裁判年月日: 平成18年6月6日 / 結論: その他
「衝突,接触…その他偶然な事故」を保険事故とする自動車保険契約の約款に基づき,車両の表面に傷が付けられたことが保険事故に該当するとして,保険者に対して車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わない。