1 被保険者が保険契約者又は保険金受取人の故意により死亡した場合には死亡保険金を支払わない旨の生命保険契約上の免責条項は,被保険者を故意に死亡させた第三者の行為が,公益や信義誠実の原則に照らして保険契約者又は保険金受取人の行為と同一のものと評価される場合を含む。 2 生命保険契約の保険契約者兼保険金受取人である有限会社の代表取締役として同会社の業務のほとんどを支配していた被保険者を,その補助的性質の業務を担当していた代表権のない取締役が個人的動機によって故意に死亡させたなど判示の事実関係の下においては,上記取締役の行為をもって上記会社の行為と同一のものと評価することはできず,保険者は,被保険者が保険契約者又は保険金受取人の故意により死亡した場合に死亡保険金を支払わない旨の保険契約上の免責条項によって,免責されない。 (2につき反対意見がある。)
1 生命保険契約の被保険者を故意に死亡させた第三者の行為が保険契約者又は保険金受取人の行為と同一のものと評価される場合における保険者の免責 2 保険契約者兼保険金受取人が会社である生命保険契約の被保険者を当該会社の取締役が故意に死亡させた場合に保険者が免責されないとされた事例
商法680条1項,民法91条
判旨
保険金受取人である会社において、取締役が故意に被保険者を死亡させた場合、当該取締役が会社を実質的に支配しているなど会社の行為と同一視できるときは、保険者の免責条項が適用される。本件では、加害取締役の役割が補助的であり実質的支配や直接的利益享受の立場になかったため、免責条項の適用を否定し保険金の支払義務を認めた。
問題の所在(論点)
生命保険契約において、保険金受取人である会社の取締役が被保険者を故意に死亡させた場合、保険契約上の「保険金受取人の故意」による免責(商法680条1項2号・3号等)に該当するか。
規範
免責条項(商法680条1項2号・3号と同旨)の趣旨は、犯罪行為により故意に保険事故を招致して保険金を入手することが公益・信義則に反することにある。したがって、受取人が会社の場合、当該取締役の故意による招致を「会社の行為と同一」と評価できる場合には、免責条項が適用される。その判断にあたっては、①会社の規模・構成、②取締役の地位・影響力、③会社との経済的利害の共通性、④保険金の管理処分権限の有無、⑤行為の動機等を総合考慮し、当該取締役が「会社を実質的に支配(または事故後直ちに支配可能)」し、又は「保険金受領による利益を直接享受し得る立場」にあるか否かにより決する。
重要事実
受取人兼保険契約者である会社(有限会社)の代表取締役A(ワンマン経営者)が、取締役である妻Bによって殺害された。Bは従業員の給与計算や資金調達事務等に従事し、金庫の鍵を保管していたが、業務自体はAの補助的性質に留まっていた。他の取締役には長男(別会社経営)と現場責任者がいた。BはAの女性関係に悩み、犯行直後に自殺した。保険会社は、受取人である会社の取締役が故意に被保険者を死亡させたとして、免責条項に基づき支払を拒絶した。
あてはめ
被上告人は従業員20〜30名程度の小規模な会社であるが、Aが業務の殆どを支配していた。Bは取締役ではあるが代表権はなく、その役割はAの業務の「補助的性質」に過ぎず、経営者として関与していたとはいえない。Bは個人的動機から犯行に及び、直後に自殺している。これらの事情を総合すると、Bが会社を実質的に支配し、または保険金受領による利益を直接享受する立場にあったとは認められない。したがって、Bの行為を被上告人(会社)の行為と同一視することはできず、本件免責条項の趣旨を及ぼすことはできない。
結論
本件免責条項には該当せず、上告人(保険会社)は被上告人に対し、保険金の支払義務を負う。
実務上の射程
会社を受取人とする保険において、加害者の属性(役員か否か)のみで一律に判断せず、実質的支配性や利益享受の有無という「実質」で免責の成否を判断する枠組みを示した。同族経営の小規模会社であっても、実権のない親族取締役の行為については、会社側の請求を認める余地を認めた点に実務上の意義がある。答案では、会社が受取人の場合に本規範を引用し、当該役員の具体的権限や影響力をあてはめる際に用いる。
事件番号: 平成3(オ)770 / 裁判年月日: 平成4年12月18日 / 結論: 棄却
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