保険金受取人が、被保険者を殺害し、その直後に自殺を遂げ、殺害当時保険金取得の意図を有しなかつたときでも、保険者は、保険金支払の責を免れる。
殺害者に保険金取得の意思のない場合と商法第六八〇条第一項第二号の適用
商法680条1項2号
判旨
保険金受取人が被保険者を殺害した場合、受取人に保険金取得の意図がなかったとしても、商法680条1項2号(当時)に基づき保険者は保険金支払義務を免れる。
問題の所在(論点)
旧商法680条1項2号(現行保険法51条等に相当)にいう「故意に被保険者を死に致したとき」の免責要件として、受取人に「保険金取得の意図」があることが必要か。
規範
保険金受取人が故意に被保険者を死に致したときに保険者が免責される(旧商法680条1項2号)趣旨は、公益上の要請、信義則、および保険事故の偶然性の要求にある。したがって、殺害者に保険金取得の意図がない場合であっても、同条の適用は排除されない。
重要事実
保険金受取人であるEが、被保険者であるDを殺害した。その後、Eは直ちに自殺を遂げた。この事案において、EにはDを殺害した当時、保険金を取得する意図はなかったものと認められた。保険者が、受取人の故意による被保険者の死亡を理由として、保険金の支払を拒んだため、その成否が争われた。
あてはめ
本件では、EはDを殺害した直後に自ら命を絶っており、保険金を得る目的で殺害に及んだとはいえない。しかし、殺害という反社会的な行為によって保険事故を招致することは、保険制度の本質である偶然性に反し、信義則にも悖るものである。受取人に保険金取得の主観的意図がなかったとしても、被保険者を故意に死に至らしめたという客観的事実がある以上、免責規定の趣旨に該当する。したがって、法条の適用により保険者は免責されるべきである。
結論
保険金受取人が被保険者を殺害した以上、たとえ保険金取得の意図がなくとも、保険者は保険金額の支払義務を免れる。
実務上の射程
保険法制定後の現在でも、同法51条(生命保険における受取人の故意免責)の解釈として同様の理が妥当する。殺害後の自殺事案等、利得目的が不明確なケースでも免責が認められる強力な根拠となる。
事件番号: 平成13(オ)734 / 裁判年月日: 平成16年3月25日 / 結論: その他
1 生命保険契約に係る保険約款中の保険者の責任開始の日から1年内に被保険者が自殺した場合には保険者は死亡保険金を支払わない旨の定めは,責任開始の日から1年経過後の被保険者の自殺による死亡については,当該自殺に関し犯罪行為等が介在し,当該自殺による死亡保険金の支払を認めることが公序良俗に違反するおそれがあるなどの特段の事…