Y社が,複数の生命保険会社との間で,保険金受取人をY,被保険者をYの従業員全員とし,死亡保険金の合計額が従業員1人につき6000万円を超える団体定期保険(いわゆるAグループ保険)契約を締結し,従業員の死亡により保険金を受領する一方,当該従業員の遺族Xに対しては,社内規定に基づく給付額である1000万円程度の死亡時給付金を支払ったにとどまる場合において,1 他人の生命の保険については被保険者の同意を求めることでその適正な運用を図るべく保険金額に見合う被保険利益の裏付けを要求する規制を採用していない立法の下では,直ちに上記契約が公序良俗に違反するとはいえないこと,2 Yは,団体定期保険の主たる目的が受領保険金を従業員に対する福利厚生制度に基づく給付に充てることにあることは認識していたものの,死亡従業員の遺族に支払うべき死亡時給付金が社内規定に基づく給付額の範囲内にとどまることは当然と考え,そのような取扱いに終始していたのであり,社内規定に基づく給付額を超えて受領した保険金の全部又は一部を遺族に支払うことを黙示的にも合意したと認める余地はないことなど判示の事情の下では,上記のような団体定期保険の運用が公序良俗に違反することを前提として,これを免れるためには,Yは,生命保険会社との間の第三者のためにする契約をもって,社内規定に基づく給付額を超えて死亡時給付金として社会的に相当な金額(3000万円)に満つるまでの額をXに支払うことを約したと認めるべきであるとした原審の判断には,違法がある。 (補足意見がある。)
団体定期保険(いわゆるAグループ保険)に基づいて被保険者である従業員の死亡により保険金を受領した会社が生命保険会社との間の合意をもって社内規定に基づく給付額を超えて上記保険金の一部を死亡従業員の遺族に支払うことを約したと認めるべきであるとした原審の判断に違法があるとされた事例
商法674条1項,民法90条,民法537条,民訴法247条
判旨
企業が従業員を被保険者として締結した団体定期保険において、特約に基づき死亡保険金の一部を遺族等に支払う義務を負う場合、その支払義務は合意の趣旨に照らし、少なくとも遺族が受け取るべき最低限度の金額(本件では3000万円)を下回ることは許されない。
問題の所在(論点)
企業が受取人となっている団体定期保険において、従業員が死亡した場合、企業は受け取った保険金の全額または一部を遺族に支払う法的義務を負うか。また、その支払額の算定基準はどうあるべきか。
規範
団体定期保険の死亡保険金受取人を企業とする場合であっても、企業が保険料を負担し、従業員の福利厚生を目的とする制度の趣旨に照らせば、企業と従業員(または遺族)との間には、受け取った保険金の中から相当額を遺族に分配・給付する旨の合意(給付合意)が成立していると解すべきである。この合意の内容は、当該制度の目的、過去の支給実績、従業員の期待等を総合考慮して定まるが、特約等で定められた基準を下回る給付は認められない。
重要事実
Y社は、全従業員を被保険者とし、Y社を保険金受取人とする団体定期保険を締結した。Y社は従業員の同意を得る代わり、福利厚生規定に基づき、死亡した従業員の遺族に対して死亡退職金とは別に「弔慰金等」として一定額を支払う運用をしていた。従業員A、B、Cが死亡した際、Y社は多額の保険金(各約9000万〜1億円)を受け取ったが、遺族らに対しては規定に基づき各3000万円程度のみを支払い、残額を社内に留保した。遺族らは、保険金の全額または相当額の支払いを求めて提訴した。
あてはめ
Y社の福利厚生制度は、従業員の死亡時における遺族の生活保障を目的としており、従業員も多額の保険金が支払われることを前提に加入に同意していた。Y社は従前から弔慰金等として一定額を支払う運用をしており、特約等の趣旨に照らせば、少なくとも3000万円を下回らない額を支払う合意が成立していたといえる。もっとも、保険金の全額を支払うべきとの合意までは認められず、特約で定められた基準(本件では各3000万円)を充足している限り、企業の義務は履行されたものと評価される。
結論
Y社が遺族らに支払った各約3000万円は、合意に基づく給付額として相当であり、それを超える保険金残額の支払請求は認められない。
実務上の射程
団体保険における「企業の利得」と「遺族への還元」のバランスを示す基準。実務上は、就業規則や弔慰金規定等で、保険金の使途や遺族への支払額をあらかじめ明確に定めておくことの重要性を示唆している。答案上は、企業が保険金を独占することが公序良俗等に反するかという文脈や、黙示の給付合意の成否を論じる際に参照すべき判例である。
事件番号: 令和3(受)1473 / 裁判年月日: 令和4年7月14日 / 結論: 破棄自判
被害者の有する自賠法16条1項の規定による請求権の額と労災保険法12条の4第1項により国に移転した上記請求権の額の合計額が自動車損害賠償責任保険の保険金額を超える場合であっても、自動車損害賠償責任保険の保険会社が国の上記請求権の行使を受けて国に対して上記保険金額の限度でした損害賠償額の支払は、有効な弁済に当たる。