「衝突,接触…その他偶然な事故」を保険事故とする自動車保険契約の約款に基づき,車両の表面に傷が付けられたことが保険事故に該当するとして,保険者に対して車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わない。
「衝突,接触…その他偶然な事故」を保険事故とする自動車保険契約の約款に基づき車両の表面に傷が付けられたことが保険事故に該当するとして車両保険金の支払を請求する場合における事故の偶発性についての主張立証責任
商法629条,商法641条,民法91条,民訴法第2編第4章第1節 総則
判旨
車両保険契約における「偶然な事故」は、保険契約成立時における発生の不確実性を指すものであり、事故が被保険者の意思に基づかないこと(偶発性)の主張・立証責任は保険金請求者側にはない。
問題の所在(論点)
車両保険契約の約款において保険事故が「偶然な事故」と規定されている場合、その事故が被保険者の意思に基づかないこと(偶発性)について、保険金請求者が主張・立証責任を負うか。
規範
商法上の「偶然な一定の事故」とは、保険契約成立時において発生が不確定であることを意味し、保険金請求者が事故の偶発性(被保険者の意思に基づかないこと)まで立証する責任を負うものではない。これに対し、被保険者の故意等による損害は、保険金請求権の発生を妨げる「免責事由」として構成されるため、その主張・立証責任は保険者側にあると解すべきである。
重要事実
上告人は、所有する車両につき、被上告人との間で「偶然な事故」によって生じた損害を補填する車両保険契約を締結していた。その後、本件車両の表面に引っかき傷が付けられる事故が発生したため、上告人が保険金の支払を請求したところ、原審は事故が偶発的であることの立証がないとして請求を棄却した。
あてはめ
本件車両保険約款の「偶然な事故」との規定は、商法上の定義と同様に契約成立時の不確定性を例示したものに過ぎない。他方、約款内の故意免責条項は、商法と同様に保険金請求権の発生を妨げる免責事由を規定したものと解される。したがって、本件のような車両損壊事故において、事故が被保険者の意思に基づかないこと(偶発性)は請求原因ではなく、故意による事故であることは保険者側の抗弁(免責事由)に属する。原審が傷害保険の判例を引用して偶発性の立証責任を被保険者に課したのは誤りである。
結論
車両保険金の支払を請求する者は、事故の発生が被保険者の意思に基づかないことについて主張・立証責任を負わない。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
保険金請求訴訟における立証責任の分配を決定する重要判例である。傷害保険等では「外来性・偶然性」が請求原因とされるが、車両保険や火災保険等の損害保険においては、事故が被保険者の意思に基づかないことの立証責任を保険者側に負わせる実務上の指針となる。答案上は、傷害保険の判例との射程の違いを意識して論じる必要がある。
事件番号: 平成12(受)458 / 裁判年月日: 平成13年4月20日 / 結論: 棄却
普通傷害保険契約における死亡保険金の支払事由を急激かつ偶然な外来の事故による死亡とする約款に基づき,保険者に対して死亡保険金の支払を請求する者は,発生した事故が偶然な事故であることについて主張,立証すべき責任を負う。 (補足意見がある。)