保険金の支払事由を火災によって損害が生じたこととする火災保険契約の約款に基づき,保険者に対して火災保険金の支払を請求する者は,火災発生が偶然のものであることを主張,立証すべき責任を負わない。
保険金の支払事由を火災によって損害が生じたこととする火災保険契約の約款に基づき火災保険金の支払を請求する場合における火災発生の偶然性についての主張立証責任
商法629条,商法641条,商法665条,民法91条,民訴法第2編第4章第1節 総則
判旨
火災保険金請求において、請求者は「火災の発生により損害が生じたこと」を立証すれば足り、火災発生が偶然のものであること(非故意性・非重過失性)を主張・立証する責任を負わない。
問題の所在(論点)
火災保険契約に基づく保険金請求において、火災発生が「偶然」であることを請求者側で主張・立証する必要があるか、あるいは「故意・重過失」によるものであることを保険者側で抗弁(免責事由)として主張・立証すべきかが問題となる。
規範
火災保険金請求権の成立要件は「火災の発生により損害が生じたこと」である。一方、当該損害が保険契約者等の故意または重大な過失によって生じたことは、保険者の免責事由にあたる。したがって、保険金請求者は、火災発生の偶然性を主張・立証する責任を負わない。
重要事実
被上告人(保険契約者)は、上告人(保険会社)との間で、自己所有の店舗兼自宅建物等を目的とする店舗総合保険契約を締結した。約款には、火災による損害に保険金を支払う旨の規定(1条1項)と、契約者等の故意・重過失による損害には支払わない旨の免責規定(2条1項)があった。本件建物で火災が発生したため、被上告人が保険金の支払を求めたところ、火災発生の「偶然性」の立証責任の所在が争点となった。
あてはめ
商法(当時)665条・641条の規定は、火災による損害が甚大で生活基盤を失いかねない点、および被保険者が火災原因を証明することが一般に困難であることに鑑み、損害の速やかなてん補を図る趣旨である。本件約款の構造も、火災による損害発生を請求権発生要件とし、故意・重過失を免責事由として区別している。この法の趣旨および約款の規定に照らせば、火災発生の偶然性は成立要件ではなく、故意等は免責事由と解されるため、請求者は偶然性の立証責任を負わないといえる。
結論
被上告人は火災発生の偶然性を立証する必要はなく、上告人は免責事由としての故意・重過失を立証できない限り、保険金支払義務を免れない。
実務上の射程
生命保険契約や傷害保険契約における「外来性・偶然性」が請求者側の立証責任とされるのに対し、火災保険においては立証責任が転換されている点に注意が必要である。答案上は、火災保険の「被害の甚大さ」と「原因立証の困難性」という政策的配慮を理由に、故意・重過失を免責事由として構成する際に活用する。
事件番号: 平成12(受)458 / 裁判年月日: 平成13年4月20日 / 結論: 棄却
普通傷害保険契約における死亡保険金の支払事由を急激かつ偶然な外来の事故による死亡とする約款に基づき,保険者に対して死亡保険金の支払を請求する者は,発生した事故が偶然な事故であることについて主張,立証すべき責任を負う。 (補足意見がある。)
事件番号: 平成17(受)2058 / 裁判年月日: 平成18年6月6日 / 結論: その他
「衝突,接触…その他偶然な事故」を保険事故とする自動車保険契約の約款に基づき,車両の表面に傷が付けられたことが保険事故に該当するとして,保険者に対して車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わない。